「縦横夢人」2021年夏号(No.33)2021年8月16日発行
リレー連載
「Road to Paralympic」を終えて
PDF リレー連載 「Road to Paralympic」を終えて
橘 祐貴
2017年から始まったリレー連載「Road to Paralympic」がついに最終回を迎えました。この連載は、「アクセス」をキーワードに、私たちの身の回りにある様々なアクセスに対してそれぞれの視点から執筆してもらいました。アクセスと一言でいっても、その対象は交通機関から宿泊やスポーツ観戦、テーマパークと幅広く、課題になっていることも人によって様々であることが各執筆者の文章を通じて知ることができました。
東京オリンピック・パラリンピックの開催決定をきっかけに、この数年で駅やスタジアム等のバリアフリー化が進みました。また、昨年の6月と今年の4月にバリアフリー新法が改正・施行されました。新国立競技場は、世界基準のアクセシビリティを満たし、新幹線も車椅子スペースが増設され、空港設備も各主要空港が改善の方向で準備を進めています。
一方で、新幹線の車椅子席の申し込みがインターネットに対応したのに切符を受け取れる駅が限られている、スタジアムに車椅子席が設置されたが観戦しづらい場所にある等、まだ解決できていない課題が多く残されています。また、近年は合理化により都市部の駅でも無人化が進んでいて、利用したい時間の電車に乗るためには事前の連絡が必要になるなど、自由に移動することが困難になる状況が起こっています。 我々をとりまく「アクセス」はまだまだ未熟です。様々な人たちへの合理的配慮がなされたアクセス環境整備は、一人の声からでも実現可能であると連載当初に申し上げました。連載は終了しますが、課題解決はここからがスタートです。肩の力を入れすぎず、それでいてより良いアクセシビリティの早期実現に向けて、みんなで声を挙げていきましょう!
各執筆者の総括
私が担当したのは、「航空機を利用して旅を楽しむために」と「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」です。パラリンピック開催のため、公共交通機関の整備は確実に改善の方向に向かっています。空港においても、伊丹空港(大阪国際空港)はリニューアルし、チェックインカウンターや保安検査場、トイレは使いやすくなっています。航空機までの動線も障害者が最短で動けるようになっていると感じられます。関西国際空港も2025年の万博開催に向けて改善に取り組みだしています。トイレの機能分散やボーディングブリッジにエレベーターを設置する等、障害当事者が参画して検討会が実施されています。接客においても、利用者の立場にたった対応が可能となるよう社員や空港内事業者に対して教育、訓練等が実施されていることが伺えます。環境、情報、心のバリアフリーは、確実に前進しているといってよいでしょう。今はコロナ禍のため、外出して検証することはできませんが、ウイルス感染が収束したあかつきには、みんなでどう改善されたのかを体感しにいきたいですね。(宮野 秀樹)
過去に投稿した「林崎松江海岸駅」ですが、その後調査した所、駅構内にエレベーターやスロープ、新たに多目的トイレも設備され、車椅子やベビーカーでも問題なく利用出来る様になっていました。以前と比べ、遠回りする必要が無くなったのは良かったと思います。この先、他の駅も順次バリアフリー化していくと思われますが、誰もが利用し易い公共交通機関が普及していく事を期待し、私達も社会参加する上で利用したいと思います。(米田 進一)
ロードトゥパラリンピックの連載について。バリアフリーを考える機会が、また一つ増えてより身近になった印象を受けました。長期間に渡っての連載で、それぞれのバリアフリーに対する考えや事例が、数多く報告されました。私は主に鉄道について書かせていただきました。鉄道会社によって対応が違ったりしながらも、ローカル線を乗り継いで、田舎にある駅にバリアフリー調査をする機会が持てました。その後、駅はホームが2つに増えて、2020年9月1日に列車増発のダイヤ改正が行われたそうです。6~8時台と19~20時台に1時間あたり1往復増発され、1日では5往復の増発になりました。タイミングが良かったのか、それでも私たちが行った後に、そのように利用しやすくなったのは、喜ばしい限りです。
障害当事者目線での報告は、自分で言うのもおこがましいですが、とても貴重だと思います。執筆者からの報告を読まれて、少しでもバリアフリーのことを考える一つの材料となり、より身近に思って頂ければ幸いです。ありがとうございました。(土田 浩敬)
私はこのテーマで、鉄道駅舎と球技場を中心に3回書いてきました。
1回目はユニバーシアード記念陸上競技場(神戸総合運動公園陸上競技場)でした。ここは1985年に建設されて以来、大した改装はされていません。車いす利用者は入場口からやや離れた専用ゲートからの入場になります。車いす席は2階の第1コーナーと第4コーナーのあたりで、球技を見るには最悪の位置にあります。席数からすると12人分くらいです。サイトラインはクリアですが雨に濡れます。また、介助者はパイプ椅子です。本来なら今年マスターズ陸上の世界大会の会場になるはずでしたが、さらなる改装はなさそうです。陸上競技場で球技を観戦するのはいかがなものでしょう。
2回目はノエビアスタジアム神戸(御崎公園球技場)でした。2002年サッカーワールドカップにあわせて建設された球技場です。残念ながら出入口とエレベータは専用のものです。車いす席はメイン、バックそれぞれのスタンドに充分あり、位置もセンターライン付近からゴールライン付近まであります。ただ、大型の電動車いすに乗っているとごみでも扱うようにゴールライン付近に案内されるので、はっきりと嫌がりましょう。
3回目は東大阪市花園ラグビー場。2019年のラグビーワールドカップに合わせて大改装されたラグビー専用球技場です。出入口は共用ですが、車いす席へ向かう動線が一般客の動線と交錯してしまう残念な構造です。車いす席は、従来からあるメインスタンド3階の10メートルライン付近(サイトラインはNG)のほか、2階の22メートルライン付近に6席ずつ、北スタンドに18席新設されました。新設の席はサイトラインはクリアなのですが、介助者は車いす利用者の後ろで観るように指導されます。何が面白いんでしょう。
奇しくも1から3回目に掛けてよりよい事例を紹介できましたが、最近完成したり改装されたからといって、よりよいものになっているかというと、桜スタジアム(長居球技場)のように残念な事例はあとを絶ちません。法律ができてからもよりよいものを作るためには、私たちがチェックし続けることが大切です。(坂上 正司)
コロナ禍でオリ・パラがどうなるのか心配していましたが始まってしまいました。選手にとっては万全の調整で臨まれていることと思います。しかし、未だにオリ・パラをやめるべきだ、と訴えている人もいます。そんな時、アスリートのインタビューを聞くと必ずだれもが口にするのが、「開催をしていただいた関係者の人たちには心から感謝します」といった言葉です。どうしてアスリートたちは普通に自分の気持ちを表す言葉が出てくるのだろう、と聞くたびに感心します。苦しい練習をして自分を強くすることに日夜考えていると言います。結果を見なければわからない、とする私とは大きく違います。
因みに言葉で表すなら、『アスリートはやりきる、私は燃え尽きる』になるのではないでしょうか。どんなに些細な事でも目標をもってやれば、苦しくても楽しさが後から付いてくる。この度のオリ・パラのアスリートから学んだ一言です。(三戸呂 克美)
Road to Paralympicで私は「キャンプ」について執筆しました。電動車椅子使用者がキャンプをするということで、かなりの下調べや準備、想定できる状況を考えて実行しました。そのおかげで、楽しくキャンプを行うことが出来ました。東京2020オリンピック・パラリンピックももちろん様々な状況を考えて準備をしていると思います。コロナウイルスにより世界中が深刻な状況になっていますが、この深刻な状況でもやってよかったなと思えるオリンピック・パラリンピックになってくれたらと思っています。(伊藤 靖幸)
私が担当したのは、三宮駅周辺のバリアフリーと阪神甲子園球場での野球観戦についてでした。三宮駅周辺は現在再開発が進行中で、執筆当時にはなかった阪急駅ビルの開業等で地上と地下を結ぶバリアフリールートが新たにできて、移動しやすい環境が整いつつあります。その一方で、初めて利用する人にはルートが分かりづらく、案内表示の改善等が必要だと思います。阪神甲子園球場は車椅子席のチケットがインターネットで購入できるようになりましたが全体に占める席数はまだ少なく、エレベーターや多機能トイレを自由に使えない等の課題も残っています。
来年にはワールドマスターズゲームズ、2025年には大阪・関西万博が開催されるので、これらを機により利用しやすい環境になることを期待しています。(橘 祐貴)