「縦横夢人」2021年春号(No.32)2021年5月10日発行
特集
ベテラン(慢性期)頸損者の健康
-受傷年数の経過で起きた変化やその対処法-
-受傷年数の経過で起きた変化やその対処法-
頸損歴と身体に起こる変化
島本 卓
私が頸髄損傷者となり、約14年が経ちました。今回の特集を書くにあたって「あの時、こんなことがあったな。」とあらためて思い出す機会になりました。また時が経つスピードにも驚きました。私自身、日々の健康には気を付けているほうかなと思っていますが、それとは別に、体の変化に追いつかなくなってきていることを実感しています。私が経験したこと、予防していることなどを書きます。
辛いぞ!褥瘡との闘い
初めて褥瘡を作ってしまったのが、病院を退院し実家生活を始めて1年が過ぎた頃でした。最初から日常生活にエアーマットを取り入れていました。エアーマットがあるからと安心しきっており、ベッド上でのギャッチアップをMAXにしてパソコン操作を5時間ぐらいやっていました。まさしく原因はこれだった。しかし、左座骨部分に赤みが帯びても、翌日には赤みも治まっていたので大丈夫と思い込んでいました。褥瘡ができ始めたと気づいた頃は、まだ米粒ぐらいの赤い発赤からでした。この時に自己判断で「これぐらいやったらなんとか治るだろう。」といった安易な考えで放置したことで悪化していきました。1週間も過ぎた頃には、米粒だった褥瘡の発赤も表面の皮膚が剥離し約2~3センチになっていました。2週間を過ぎた頃には表面からどんどん浸出液が出始め大きさは約5センチにも達していました。ドクターに往診してもらいながら回復を待ちましたが、1か月が過ぎても状態が良くならなかったため、自宅ベッド上で壊死している部分を切開し縫合手術を受けました。手術後は約1年から2年くらいまで、少し座っても痛みを感じているような気がしました。実際に患部が赤くなることもありました座位姿勢の時間を減らしたり、体位交換による除圧を取り入れたことで新たに褥瘡を作ることはありませんでした。あの時にもう二度と褥瘡を作るまいと管理をしていたつもりでしたが、それから約13年が経った頃に、今度は反対側である右坐骨部分に褥瘡を作ってしまいました。前回、褥瘡ができた時と生活スタイルが変わり、ベッド上から日常生活の大半を電動車椅子で過ごすようになりました。電動車椅子に乗っていた時間で言えば、約16時間くらいでした。今考えると無理のし過ぎとしか言えません。赤みをおびた患部は、24時間が経ってもその赤みがとれることがなくなり、数日もしないうちに表面の皮膚が剥離しました。翌日には浸出液が少し滲んできていました。さすがに危機を感じ、結局、皮膚科を受診することにしました。先ずは患部の写真を撮って、その写真をもとにオンラインでの診察を受けました。しかし写真だけでは傷の表面は診れても、深さはわかりません。その現状で、軟膏等を処方してもらい、毎日、患部の洗浄をしながら薬を塗布することになりました。1週間が経っても良くなるどころか、滲出液の量が多くなって冷や汗が出てきました(写1)。
もう一度、皮膚科を受診して先生に相談したところ、往診で患部を診たほうがいいと言われました。週明けに往診をしてもらい患部を診てもらいました。結果、先生が驚くほど患部の状態が悪かったことで、すぐドクターストップが出されました。もちろん電動車椅子に乗ることもできなくり、日常生活はベッド上で過ごすことになりました。自宅での長期療養が始まりました。ドクターから指示があり、毎日、患部の洗浄と薬の塗布をしました。患部の皮膚にズレが生じないように、ベッドをフラットのまま生活をしていました。褥瘡の治療はとても根気が必要です。ドクターに相談ができ、ヘルパーが毎日のケアに関わってくれたおかげで、7か月という長い期間になりましたが完治することができました。その後も患部の皮膚はすぐに赤みを帯びるような状況でしたが、再発することは今のところありません。治りのスピードは約10年前と比べて、あきらかに遅くなっていることを実感しました。
睡眠時無呼吸症候群
私は夜間から朝まで毎日、ヘルパーさんに支援をお願いしています。3年前から就寝時に毎日、CPAP(シーパップ)を装着するようになりました。最初の頃は睡眠時間が短いことが原因で、日中に眠たくなると思っていました。まず就寝時間を長くとろうと思い実行しましたが、いっこうに眠気がなくなる気配がありませんでした。どうやら「呼吸がとまっているようだ」とヘルパーさんから教えてもらいました。慌ててネット検索をして、予防グッズを探しました。その結果、ネット通販で舌に装着できるマウスピースを見つけ、興味本位で購入しました。数日は軽減できているような感じだと教えてもらいました。このまま毎日装着すると決めた矢先に、業務中で利用者さん宅であるにも関わらず寝落ちをしてしまいました。その時の記憶は何もありません。これはダメだと確信したので、耳鼻科を受診することにしました。ドクターに状況を伝え、自宅でできる簡易式検査機器を借り、2日間、就寝時に機器を鼻、手首に装着しデータを取る検査をしました。検査のためには、病院で検査入院をしなければいけないと思っていましたが、自宅で簡単にすることができたので、入院でのストレスを感じることがなくて良かったです。
結果は、睡眠時無呼吸症候群と診断されました。ドクターから言われたのは、もう数年前から症状があったんではないかと言われました。そう言えばと思い当たることがありました。おかしいな?眠いなというのが続いている場合は、早期で相談するほうがいいと思います。
起立性低血圧を抑制しながら
私の現状は、起立性低血圧はでにくいほうだと思っています。受傷して病院に入院していた時は、起立性低血圧にとても悩まされていました。ベッド上で食事をする時や、車椅子に乗せてもらってすぐに目の前が真っ白になっていたことを覚えています。毎日、リハビリで座る練習をして、なんとか起立性低血圧が起こっても影響されにくい状態になっていきました。まったく起きないというわけではありません。例えば、電動車椅子に乗っている時は、ティルト・リクライニングを自ら操作して落ち着くまで背もたれを倒しています。最近、自分で感じていることがあります。天候が悪い時や、湿気が強い時に電動車椅子に乗っていると、頭がフワッとすることがあります。そうなった時は、背もたれを倒すとおさまるんです。実際にその場で、血圧を計ったというわけではありません。最初に書きました褥瘡の療養中に、電動車椅子に乗ることができなかったことや、加齢による体の機能変化が影響しているのかもしれません。
食事と排便コントロール
私は毎日の食事で、栄養、水分、食物繊維を調整しています。便が固くなるとガスが出にくくお腹が張ってしんどく、便が軟らかくなりすぎると失便してしまう不安があるからです。毎食欠かさず野菜サラダ、野菜スープのどちらかを食べています。食物繊維でも、水溶性・不溶性のバランスを見ながら取り入れるようにしています。あとは魚(さば)、肉を交互に取り入れ、発酵食品は漬け物、納豆、チーズ(塩分注意)を意識して取り入れることで、スムーズな排便につなげられています。
誰もが年齢を重ねていくにつれて、体の機能変化は起こっていきます。ただ日々の生活の中で、変化を感じた時に「こうなっていくんだ。」と予測できると不安が少ないのではないでしょうか。また毎日の食事、睡眠がいかに重要であるかということです。私自身の1事例ではありますが、毎日の工夫と地域医療との連携で、地域生活満喫の可能性が広がると思います。