特集 「コロナ生活実態調査のアンケート」 結果報告 「縦横夢人」2021年秋号(No.34)

「縦横夢人」2021年秋号(No.34)2021年12月6日発行

特集
「コロナ生活実態調査のアンケート」
結果報告

-コロナ禍が頸髄損傷者の生活にどのような影響を与えたのか-

PDF 「コロナ生活実態調査のアンケート」 結果報告
 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、私たちの社会や生活に大きな影響を及ぼしました。8月に開催された第23回兵庫県総合リハビリテーション・ケア研究大会は、「コロナ禍が我々の生活にもたらしたもの~障がい当事者の目線から考える~」というテーマで行われ、大会に先立ち、コロナ禍での頸髄損傷者の生活の様子を調査する目的で、全国の頸髄損傷者を対象に実態調査アンケートを実施しました。今回の特集では、実態調査アンケートの結果について報告します。

(橘 祐貴)


「コロナ生活実態調査のアンケート」結果報告

橘 祐貴

はじめに

 兵庫県頸髄損傷者連絡会と兵庫県リハビリテーション協議会は、「コロナ禍が我々の生活にもたらしたもの~障がい当事者の目線から考える~」をテーマに第23回総合リハビリテーション・ケア研究大会を8月に開催した。大会を開催するにあたって、コロナ禍が頸髄損傷者の生活にどのような影響を与えたのか、実態を調べるため、全国の頸髄損傷者を対象にインターネットアンケートによる実態調査を行った。本特集では、実態調査アンケートから見えてきた頸髄損傷者のコロナ禍での生活動作への影響や、外出頻度・福祉サービス利用の変化などについて報告する。

アンケートの概要

 本アンケートは6月に実施され、主に感染症流行前と感染拡大時期での生活の変化について調査するため、項目を以下の4つに分けて調査した。

◆大項目1【回答者の属性】
・居住地 ・性別 ・生まれ年 ・受傷後経過年数 ・障害の程度 ・同居者の有無

◆大項目2【感染症流行前の生活状況】
・医療の受診頻度・利用していた制度(サービス)・外出頻度
・就労・就学について・仕事の仕方・内容(リモートワークの活用等)

◆大項目3【感染症拡大期間の生活状況】
・健康面・心理面の変化 ・障害福祉サービス等の変化 ・生活動作への影響
・医療の受診等の影響 ・就労・就学への影響 ・外出頻度の変化 ・社会的な交流の変化

◆大項目4
・この1年でのリモートの環境・活用の変化、障害福祉サービスの変化
・1年間での気づき・挑戦したこと 現在の心配や不安
・これから地域・福祉・医療・社会に期待、提案したいこと(自由記載)

感染拡大の時期については、
第1期(発生から最初の緊急事態宣言発令)、
第2期(宣言解除後の少し緩やかになった時期)、
第3期(再感染拡大している時期)

の3つに分けて分析した。

アンケート回答者の属性

 本アンケートには男性43人・女性14人の計57人から回答があった。回答者の年齢は50代が16人で最も多く、次に60代(15人)が多かった。


図1 アンケート回答者の性別

 受傷(発症)してからの年数は、「21年以上」が61パーセントで最も多かった。次に多かったのは「10年以上20年未満」(32パーセント)で、受傷(発症)からの年数が長い頸髄損傷者の割合が高かった。一方で、受傷してから10年未満の人は少なく7パーセントだった。(図2)


図2 受傷からの経過年数

 障害(運動機能)の程度は、「C5レベル」が20.35パーセントと最も多く、続いて「C6レベル」(14.25パーセント)、「不全」(9.16パーセント)の順で多かった。(図3)


図3 障害(運動機能)の程度

 アンケート回答者に同居者の有無について尋ねると、「同居人がいる(家族・友人等)」と回答した人が56パーセントで過半数だったが、一人暮らしの人も58人中25人で4割以上いた。また、コロナ流行期の生活への影響について同居人の有無で分析すると、同居人がいる人よりも一人暮らしの人の方が移動や食事に影響があったと回答していた。(図4)


図4 同居者の有無

感染症流行前の生活状況

 新型コロナウイルス感染症が流行する前の生活状況について尋ねた。感染症流行前の医療機関への通院の頻度は、「月1回」が47パーセントと最も多く、次に「2週間に1回程度」(21パーセント)が多かった。(図5)


図5 感染症流行前の通院状況

 感染症流行前の就労・就学の状況については、約半数が就労・就学していたと回答した。(図6)


図6 感染症流行前の就労・就学状況

 就労していると回答した27人について感染症流行前の働き方について尋ねると、「職場に出勤して、仕事していた」が19人、「在宅中心で仕事をしていた(在宅ワーク)」は8人だった。(図7)


図7 感染症流行前の仕事の仕方

 感染症流行前に利用していたサービスの種類は、「障害者総合支援法」の利用が49人で最も多く、回答者の7割近くいた。次に多かったのは「自費サービス・ボランティア」、「介護保険制度」だった。一方で、サービスを利用していない人も5人いた。(図8)


図8 感染症流行前に利用していたサービス

 感染症流行前の外出の頻度については、「ほぼ毎日」と「週に3~5日程度」と答えた人が最も多く、週1回以上外出している人が21人(約79パーセント)だった。週1回以上外出している21人のうち、「移動支援サービス」を利用して外出している人は18人(約86パーセント)だった。また、職場に出勤していた19人のうち、10人が週3~5日程度以上の頻度で外出していた。(図9)


図9 感染症流行前の外出頻度

 感染症流行前に利用していたサービスは、「訪問介護・居宅介護」が46人で最も多かった。次に多かったのが「訪問看護」で34人だった。サービスの中で「移動支援(ガイドヘルパー)」を利用していた人は21人で、回答者全体の37パーセントだった。(図10)


図10 感染症流行前に利用していたサービス

コロナ禍での生活の変化

 コロナ禍での生活の変化について、感染症が発生する前と後で、利用している福祉サービスに変化があったのか比較した。最も変化があったのが「移動支援(ガイドヘルパー)」で、感染症流行前に利用していた21人のうち、第1期では14人で利用が減っていた。第2期・第3期でも変化があったと答えた人が最も多かった。(図11)


図11 感染症流行前と比べて変化があったサービス

 コロナ禍で影響を受けた生活動作は、「移動」が19人~21人で最も多く、次に「食事」、「移乗」の順で多かった。このうち移動で影響を受けた人の例として、「外出をできるだけ控えた」、「買い物をヘルパーさんに頼んだ」という回答があった。(図12)


図12 コロナ禍で影響を受けた生活動作

 コロナ禍で影響を受けた生活動作の中で、移動について感染症流行前と感染症流行期で外出回数の変化を比較した。感染症流行前に「ほぼ毎日」・「週に3~5日程度」外出していた30人のうち、15人(約47パーセント)の外出回数が流行第1期では週1~2日程度以下に減少していた。感染症流行前に週1回以上外出している人は全体の79パーセントだったが、流行第1期では65パーセントに下がっていた。流行第2期・第3期でも週1回以上外出している人の割合は61パーセント、63パーセントにとどまっていた。一方で、「ほとんど外こう出していない」・「外出していない」と回答した人の数にはあまり変化は見られなかった。(図13)


図13 外出頻度の変化

 感染症流行前と第1期での外出頻度の変化を移動支援の利用回数でみると、移動支援を利用していた21人中14人でサービスの利用回数が減少していた。14人のうち、第1期で外出頻度が減少したのは6人、生活動作の移動に影響があったのは5人だった。そのため、外出頻度の低下は移動支援の利用回数の減少によるものだとは言い切れず、移動支援を利用しない範囲で外出していたと考えられる。(図14)

◆ 感染流行前ほぼ毎日:15人
(内、移動支援サービスの利用が3人、
第1期生活動作の移動に影響があったのが5人)

⇒第1期
週1~2回程度:3人月1~2回程度:1人外出していない:1人変化なし10人計5人(33%)が週1~2回程度以下の外出頻度に減少していた。
その内、生活動作の移動に影響があった人が2人、
サービスとして移動支援の回数が減少した人が1人(1/1)

◆ 感染流行前週3~5回程度:15人
(内、移動支援サービスの利用が7人(47%)、
第1期生活動作の移動に影響があったのが7人(47%))

⇒第1期
週1~2回程度:7人外出していない:2人変化なし:6名
9人(60%)が週1~2回程度以下の外出頻度に減少していた。
その内、サービスとして移動支援の回数が減少した人が1人(1/3)
生活動作の移動に影響があった人が4人
※流行前に移動支援サービス利用の7人中、4人で回数の減少あり。

◆ 感染流行前週1~2回程度:14人
(内、移動支援サービスの利用が8人(57%)、
第1期生活動作の移動に影響があったのが5人(36%))

⇒第1期
月1~2回程度:4人変化なし:10人
4人(29%)の外出頻度が減少していた。
その内、サービスとして移動支援の回数が減少した人が2人(2/3)
生活動作の移動に影響があったのは0人
※流行前、移動支援サービス利用の8人の内、6名で回数の減少あり

◆ 感染流行前月1~2回程度:5人
(内、移動支援サービスの利用が1人、
第1期生活動作の移動に影響があったのが2人)

⇒第1期
外出をしていない1人、ほとんど外出をしていない1人
(内、移動支援サービスを利用は0人、生活動作の移動に影響があったのが1人)
変化なし3名
※移動支援サービスの減少はあったが変化なしの1人であった。

◆ 感染流行前外出していない:7人
(内、移動支援サービスの利用が2人、生活動作の移動に影響があったのが2人)

⇒第1期
変化なしが5人、月1~2回程度が2人
変化なし5人の内、2人で移動支援サービスの減少あり、1名で移動に影響あり月1~2回程度が2人の内、1名で移動に影響あり

  • 外出頻度の低下は、移動支援の回数の減少によるものであるとは言い切れないのでは。
  • 移動支援サービスを利用していた21名中、第1期でのサービス回数減少が14人その内、第1期で外出頻度が減少したのは6名
    生活動作の移動に影響があり7名
  • 仕事をしていた29人の内、19人は職場出勤で、その内17人が週3~5日程度以上の頻度で外出をしていた

図14 染症流行前と第1期での外出頻度の比較

 コロナ禍での健康面・心理面の変化について、流行前よりも「体力が落ちた」、「身体が動かしにくくなった(体が硬くなった・筋力が落ちた)」、「気分の落ち込みがあった・元気がなくなった」と答えた人が多かった。生活動作別の影響をみると、「移動」に影響のあった人では、移動支援の利用が減少したことによる気分の落ち込みや体力の低下、身体の動かしにくさを感じていた。訪問リハビリの利用に制限があった人では、全員が気分の落ち込みや体力の低下、身体の動かしにくさを感じていた。一方で、健康面・心理面で「特に変わりはなかった」と回答した人も4割近くいた。(図15)


図15 コロナ禍の健康面・心理面の変化

 コロナ禍での医療機関受診等の影響については、全ての期間で「特に変わりなく、通院・受診していた」と答えた人が最も多かった。次に多かったのが「通院・受診の頻度が減った」だった。一方で、通院からオンライン診療や往診、家族等が代わりに薬の受け取りに行ったという回答があり、通院ができなくなっても医療を受けることができていたことが分かった。
 流行第1期と第2期・第3期を比較すると「通院・受診の頻度が減った」と答えた人の数が少なくなっている一方で、「特に変わりなく、通院・受診していた」と答えた人が増えていた。「通院できなくなった、受診できなくなった」と答えた人は流行第1期・第2期にはいたが、第3期ではいなかった。(図16)


図16 コロナ禍での医療機関受診等の影響

 就労していると答えた27人に対し、コロナ禍での就労への影響について調べた。感染拡大前は職場に通勤していた19人のうち、10人で、リモートワークへの変更があった。流行第1期から第3期までの就労への影響について比較すると、第2期・第3期では「在宅ワーク・オンラインでの仕事(ビデオ通話を使った会議など)」と答えた人の数が減少して、「特に変わりはない・影響はなかった」と答えた人の数が増えていた。(図17)


図17 感染症の発生する前の生活と比べた
就労への影響

 感染症流行期の社会的な交流の変化について感染症流行前と比較すると、直接会って交流する機会が減ったのは57人中、第1期47人(82%)、第2期45人(79%)、第3期43人(75%)で、うち、第1期28人(60%)、第2期26人(58%)、第3期25人(58%)に健康面・心理面への影響があった。

 オンライン(ビデオ通話)での交流が増えたのは57人中、第1期38人(67%)、第2期36人(63%)、第3期39人(68%)だった。うち、20人(53%)、18人(50%)、22人(56%)に健康面・心理面への影響があった。(図18)


図18 各期間の社会的な交流の変化

 オンライン(ビデオ通話)の環境について
コロナ禍では、直接会っての交流が減少した代わりにzoom等を用いたオンライン(ビデオ通話)での交流が広がった。そこでオンライン(ビデオ通話)の環境を整えた時期について調べると、感染が流行する前からオンラインの環境を整えていた人が46.6パーセントと最も多く、感染第1期までに環境を整えた人を合わせると75.9パーセントにのぼった。そのため、コロナ禍でも比較的スムーズにオンラインでの交流に移行することができる環境にあった人が多かったと考えられる。(図19)


図19 オンライン(ビデオ通話)の環境を整えた時期

 この1年間で障害福祉サービスを変更した5人のうち、コロナ禍の影響でサービスを変更した人は3人だった。変更の理由として、「ヘルパー訪問時間の増加」、「家の中での介助が増えたことが理由で重度訪問介護の支給量を増やした」、「事業所が撤退する不安を感じたため、居宅介護事業所の数を増やした」という意見が具体例として挙げられていた。(図20)


図20 この1年間で障害福祉サービスを変更した人の割合

コロナ禍での気づき・生活の中での工夫


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