映画「最強のふたり」の副読本に!頸損解体新書2010ひとりじゃないよ 2012年夏のキャンペーン!vol.3 頸髄損傷者が目指す自立生活と本書

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以下は全国頸髄損傷者連絡会サイトの『頸損解体新書2010 ひとりじゃないよ』(「頸髄損傷者の自立生活と社会参加に関する実態調査」報告書)-「ご挨拶・プロローグ」からの抜粋です。
頸髄損傷者が目指す自立生活と本書

◆ はじめに

 全国頸髄損損傷者連絡会は、どんなに障害が重くても、住み慣れた地域社会の中で、特別な存在ではなく、あたり前に生活できる社会の実現を目指して活動してきた。
過去の長い間、重度身体障害者である頸髄損傷者は保護の対象とされていた。頸髄損傷者は家族と一体の存在として扱われ、ほとんどの人が家族介護の下で暮らしていた。社会復帰するためには障害を克服する自助努力が求められ、日常生活動作(ADL)のできない人は、多くが周囲の顔色を見ながら日々生活していた。
 このような中で私たちは、「身体障害者=ハンディキャップを持った人」ではなく、当事者を取り巻く社会環境を改善すれば、ハンディキャップを感じない社会にすることができると考えて活動してきた。
 私たちは「頸髄損傷者の権利が保障され、社会の中でハンディキャップや偏見差別を感じないで生活できる社会」を求めてきた。誰もが便利に、共生して暮らせる「ユニバーサル・デザイン」の社会である。

◆ 私たちの考える自立生活

 私たちは「自分の望む場所で、自分の選択に基づいて生活スタイルを決め、その結果に責任を持って暮らす」ことが、自立した生活であると思っている。
 自発的な意思によって、自らの生活を作り上げていくこと。危険を冒すこと、悪行・善行、何もしないという決断もできる生活である。単身生活を「自立生活」と思っている人がいるが、それは私たちが考える自立生活の意味ではない。家族と暮らそうと、単身で暮らそうと、日々主体性を持って暮らすことが、自立生活である。
 頸髄損傷者が、地域社会の中で自立し、社会参加して生きていくためには、医療・リハビリテーション、日常生活支援、バリアフリー化された地域社会、また生活を支える所得、福祉機器等の充実が求められる。
 誰もが自立できるシステムは、誰もが互いに差別や偏見意識を持たず、対等な立場で意見交換できる社会システムがなければ作れないと考えている。また安定した自立生活は、障害者ばかりでなく、周りで支える人たちの生活環境も改善されなければ、決して手に入らないだろう。
 頸髄損傷者(障害者)の自立支援の大前提は「私たち抜きに、私たちのことを決めないこと」であり、当事者が政策決定や製品開発に参画できる社会でなければならないと考えている。

◆ 本書作成の経緯

 頸髄損傷者が安心して暮らせる社会を目指して、昭和48年の会設立以来地道な活動を続けてきた当会は、1991年に全国レベルの頸損実態調査を行い、その結果を報告書「頸損解体新書(副題:復活の明日に向かって)」にまとめ、当事者のみならず関係者に活用して頂いた。
 そこで浮き彫りになった各課題に対する取り組みの結果、今では人工呼吸器使用者が在宅生活して外出を楽しんでいる。四肢麻痺の頸髄損傷者が電動車椅子を操作して東京-大阪を日帰りしているし、単身生活する人も格段に増えた。
 前回調査から約20年、頸損者のおかれた生活環境、生活の質(QOL)は確実に向上している。しかし、未だ制度の谷間に取り残され、不安を抱えて苦しんでいる人が存在する。2006年の医療制度改革では医療費の抑制策が進められ、適切な医療やリハビリテーションを受けることができなくなった人も出ている。
 税収の伸びが期待できない国家予算では、費用対効果によって事業仕分けが行われ、充実した支援施策を生み出すには、発想の転換が必要な時代となっている。予算ありきの政策決定に依らず、頸髄損傷者(社会的立場の弱い人)の人権が守られる支援策を作る必要がある。2006年に国連で採択された「障害のある人の権利に関する条約」が国内批准されれば、障害者支援法の整備に大きな力となるだろう。
 私たちは、当事者不在で施行された障害者施策を利用して生活しているが、高齢化問題、重度頸髄損傷者の問題、地域間格差、偏見差別問題などが浮上している。そこで20年ぶりの全国頸髄損傷者実態調査を実施して、基礎データ整理、課題をまとめた「頸損解体新書2010(副題:ひとりじゃないよ)」を作成することとした。

◆ 全国頸損実態調査と分析について

 まず頸髄損傷者の生活実態を調査する項目を決めるにあたって、1991年の調査と比較検討できるものにしようとしたが、約20年という歳月の間に社会状況が大きく変わっており、前回調査項目の全面的見直しを行った。
 実態調査票「頸髄損傷者の自立生活と社会参加」の質問内容は、より重度の人の自立を可能にするために必要なこと、地方分権による支援サービスの格差、頸損者と家族の高齢化に伴う問題、また障害者の人権等について考慮し、分野別の設問項目を決定した。20年前と比較できる形で、補装具・福祉機器、介助、自立生活、社会参加の阻害因子を浮かび上がらせる項目作りを行い、新たな項目として結婚・性、支援制度についての知識、心の問題を追加した。
 データ分析にあたっては、特に①地域格差(大都市と地方都市)、②障害程度による格差(重度頸髄損傷者、人工呼吸器使用者問題)、③年齢・性別による格差(介護保険、女性障害者問題)、④健康状態、⑤生活環境(家族状況、住環境、機器利用状況、所得)、⑥外出・就労の壁などを軸に仮説を立てて作業を進めた。

◆ 「頸損解体新書2010」について

 本書作成に当たって私たちは、誰のための報告書とするか、どのような構成にするか議論を重ねた。
その結果、「どんな重度の頸髄損傷者でも自立できる」のだということを、頸損当事者、家族、頸損に関わるすべての専門家に問題提起できる冊子内容とすること。構成については、情報を共有化し、本書を見た人がそれぞれの問題解決の道筋を作っていく参考になるものとすることとした。
 本書は、第一部:人生をあきらめない、自分らしく生きる(セルフヘルプ編)、第二部:頸髄損傷者の自立生活と社会参加に関する実態調査報告、第三部:頸髄損傷者の自立生活と社会参加の促進に向けた提言、第四部:資料編の4部構成にした。内容的には、前向きに生活している頸髄損傷者の生の姿を紹介し、その人たちも含む全国の頸髄損傷者の生活を客観分析、生の声・統計的データから見える課題を整理して、提言を行うという形をとった。

◆ 最後に

 頸髄損傷者が安心して自立生活するには、まだまだ条件整備が必要であり、関係者が互いに相手を理解して事にあたらなければならないと思っている。
 本書が頸髄損傷者に対する理解を深める一冊となり、自立と社会参加を支援する問題解決に役立ち、誰もが暮らしやすい世の中になることを願っている。
 また本書作成にあたっては、長期に渡り、多くの方々のご支援、ご協力を頂いた、ここに心より感謝申し上げたい。
(八幡 孝雄)

◆ 参考文献

1) 中西・上野著:当事者主権,岩波新書,2003
2) DPI日本会議編集:障害者の権利条約でこう変わる,解放出版社,2007

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