特集 口腔ケア 歯科診療・あたりまえの事が難しい 「縦横夢人」2019年夏号(No.25)

「縦横夢人」2019年夏号(No.25)
特集 口腔ケア
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口腔ケア


 「芸能人は歯が命」昔に流行ったキャッチコピーです。歯は、私たちが生きていく上で非常に重要な「口から栄養を摂る」ために「噛む」という役割を果たしています。芸能人だけではなく、全ての人にとって「命」ともいうべきものです。頸髄損傷者にも歯は重要な役割があり、食べるだけではなく、四肢麻痺ゆえにできない動作も補ってくれます。例えば、ペットボトルや缶ジュースのフタを開ける、パソコンのキーボード入力をマウススティックで行う、といった動作です。
 では、そんな生活に欠かすことができない歯を、みなさんはどのようにケアし、口腔内の健康を維持しているのでしょうか?日々の歯磨き、歯科受診、他の頸髄損傷者はどのように行っているか関心ありませんか?
 今回は「口腔ケア」というテーマで特集を組みました。みなさん歯の健康を保つことに苦労されていると思います。その一助としてもらうべく、数名の方にお願いして口腔ケア方法を紹介してもらいました。掲載してるものはあくまでも事例であり、推奨するものではありません。参考にしていただければ幸いです。 

(宮野 秀樹)


歯科診療

兵庫支部 三戸呂 克美

 8020(ハチマルニイマル)運動というのをご存じですか?それは、80歳で20本以上の歯を残そう、という運動のスローガンです。
 以前テレビのコマーシャルのキャッチコピーで、「芸能人は歯が命」というのがありました。それをもじって「頸損は歯が命」という人がいました。それは、手指の不自由な頸損者が歯を自助具の一部として利用し、缶ジュースのプルトップを歯に引っ掛けて開ける強者がいたからです。手指の不自由な頸損にとって、口を使う頻度は誰よりも多いと思います。口にくわえたスティクでキーボードを打つことができるのも、丈夫な歯があればこそのこと。いつまでも大事に使いたいものです。
 私は、いつまでも何歳になっても自分の歯で食事をしたいと思い、口腔ケアについては年に2回は歯科医院に診療に行っていました。頸損になって入院中でもできる限り実行していました。歯ブラシが使い難いのは皆同じです。OT(作業療法士)に自助具を作ってもらい歯磨きをしても、磨けない箇所は出てきます。ある診療所に行ったとき先生に言いました、「どうしても磨けないところがありそこが虫歯になりそうです」と。そのとき先生は「磨けないところは診療所で磨いてあげるので来たらいいですよ」と言ってもらえたのです。その診療所の患者は障害を持つ人たちが大半で、某リハビリセンターの一角にあります。
 歯科の診察や治療は診察台に移乗するのが一般的です。その診療所でも診察台に移乗するのですが、移乗は先生と歯科衛生士に介助をしてもらうことになります。ある日受診をしたとき衛生士の一人が、男性のヘルパーはいないのですか?と聞くのです。女性のヘルパーしかいません、と言いました。それでしたら、ここに来るより他の歯科医院に行けませんかと言うのです。移乗のとき介助するのがしんどいというのがその歯科衛生士の気持ちです。自分の仕事量が増えることが嫌だったようですが、患者に問題解決を求めても対処療法でしかなく、リフターなどを設置すれば解決するのになぜ上司にそれを求めようとしないのか疑問に思いました。
 現在は家の近くにクリニックが開業され、診察台には移乗はしていませんが、チルト機構を利用して車いす上で診察を受けています。


あたりまえの事が難しい

大阪支部 吉田憲司

 歯も年齢とともに衰えてきます。30代半ばから歯の摩耗が進み睡眠時にはマウスピースが欠かせません。夜間、気が付くと噛みしめていることには自覚がありました。歯のかみ合わせ部分がザラザラしてきたと思ったら「表層のエナメル質が削れてきていている」とたまに往診してもらっている歯科の先生に指摘されました。
 また、硬めの歯ブラシを使っていましたが「これは20代が使うものだよ。」と注意を受け、もう少しやわらかいものを使うようにしました。歯間ブラシが通るくらいに歯の隙間が広がってきたのもこの時期です。
 40歳を越えてからは「歯肉が後退してきたからそろそろ歯周病の心配やな。」と嬉しそうに言うのです。以来、歯磨き後には歯間ブラシが欠かせません。年相応の流れではあるそうですが「もう少しうまくケアができたのでは?」との思いもあります。
 年齢と歯の状況に応じた適切なケアの判断が難しく、定期的な検診と予防、とあたりまえの事をあたりまえに行う事の大切さと共に、その難しさを痛感しています。80歳まで20本、は無理としてもできる限りは自分の歯でいきたいですね。


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