特集『コミュニティから見た自分の生活』 「縦横夢人」2020年夏号(No.29)

「縦横夢人」2020年夏号(No.29)2020年8月11日発行

特集

コミュニティから
見た自分の生活

コミュニティから見た自分の生活

 人は生きていく上でなんらかのコミュニティに属しています。広くは「地域社会」がそうです。地域社会を形成する集団の一員として我々は暮らしています。しかしここで考えたいのは広域ではなく狭域でのコミュニティ=目的や趣向を同じくする人々の集団です。普段我々は生活する上で、ひとつではなく数々の小さなコミュニティに属して暮らしています。しかもそれらが幾重にも円が重なるようにあなたの回りに形作られているはずです。私であれば、障害者というコミュニティ、頸髄損傷というコミュニティ、NPO法人や家族および友人という小さなものに至るまで数多くのコミュニティに属しています。
 今年に入って我々が今まで経験したことのない事態に直面しました。新型コロナウイルスがここまで社会的影響を与え、社会的距離をとらざるを得ないことになろうと想像できたでしょうか。あらゆるコミュニティから離れ、自宅にこもることになろうとは考えもしなかったことだと思います。人とのつながりが絶たれたことで、あらためてコミュニティの重要性を実感したのではないでしょうか。普段は意識することもなかったけれども、様々なコミュニティの中で自分が活かされていたことに気づいたのではないでしょうか。
 今回の特集では、自分がどのようなコミュニティに属しているのか、またはコミュニティが自分にとってどのような存在であるのかをあらためて考える機会とします。また、今回のような自粛生活を体験したことで、コミュニティに求めるものや「このようなコミュニティがあればよい」といった各執筆者の思いも書いてもらっています。ご一読いただけると幸いです。(宮野秀樹)


コミュニティから見た自分の生活


PDF コミュニティから見た自分の生活

島本 卓

 私は「人とつながる」ということがコミュニティだと思っています。今の自分があるのも、いろんな人とのつながりがきっかけであり、見かた考え方だけでなく、いろんな選択肢があったという部分からも、大きく変わったのだと思っています。
 そもそも私が交通事故で頸髄を損傷した時、現在、関わることができているコミュニティとの出会いが予想できたか。思い返すと、当時はまず何を考えたらいいのかがわからなかったのです。しかし、入院していた病院のドクターが、コミュニティと関わるきっかけを作ってくれました。その時に、兵庫頸髄損傷者連絡会と出会いました。同じ境遇を経験している方々がおられ、身体状況や住宅改修、それ以外の情報についても教えてもらうことができました。もし入院時、私が兵庫頸髄損傷者連絡会というコミュニティに出会っていなければ、どうなっていたのかなと思っています。
 今回のテーマから、私が思うコミュニティと、これから求めていきたいコミュニティについて書いていきたいと思います。

 新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)は、すべての方に影響をもたらし、コミュニティにまで大きな影響をあたえる事態となっています。もし10年前に新型コロナの影響が広がっていたら、我々の生活はどうなっていたか、想像をしたくありませんが、間違いなく個々のコミュニティは機能しなかっただろうと思います。コミュニティに関わっている者同士の手段も今とは違って、当時もWEB環境が整っていなかったわけではないが、そんなに高い意識で活用できないのではないかと思います。2010年代に多くのソーシャルメディアが生まれ、その頃から、フェイス・トゥ・フェイスであった方法から、オンラインのコミュニケーションの方法へと一気に切り替わったと言えるのではないでしょうか。SNSの大きな特徴として、直接会うことがなくても、人とつながることができるようになりました。コミュニティの中の仲間と直接会うという選択肢を持ちながらも、天候、体調に合わせて、オンラインによるつながりが広がっていくことになりました。コミュニティそのものの変化ではなく、参加方法の選択肢が増え、個々の予定や時間帯に合わせられるようになりました。例えばzoom、Googleハングアウトは、スマートフォンやパソコンでも気軽に使用できるように進歩したことで、多くの方がコミュニティに属しやすくなったと言えると思います。

 地域社会というものは、いろいろな地域にあるものを含んでいると思います。そしてその中で、私たちの生活は多くの人々と関わることで成り立っているはずです。インターネットの発達、スマートフォンが普及し、人との関わり方が個人によって「選択できる」ようになりました。一人で生活するための環境は違っていても、家族の存在、近所の人、そしてそこから派生する様々な人と関わり合うことで、生活を考えることができるはずです。
 一人だけで生活できる環境が整っても、むしろ近隣の人とのかかわりは増えていくはずです。地域で生活しているのだから。


私のコミュニティマップ

 私は、障害者スポーツが取り巻く環境に関わり始めて、9年目になります。もともとスポーツが好きで、いろんな競技をやっていました。車いす生活になってしまったのですが、スポーツが盛んなら、障害者もどこかでスポーツをやっていると思っていました。実際、地域にある体育館に行ってみたのですが、障害者スポーツの情報は得られないのが現状でした。施設はあるのに何でないのかがわかりませんでした。市のスポーツ課や、県にも問い合わせをしましたが、私が住んでいる地域では行われていませんでした。しかし、一つだけ情報が得られました。それは兵庫県立リハビリテーション中央病院と同じ敷地内にある、スポーツ交流館に情報があると言われたので伺うことにしました。いろいろお話もでき、帰りの車の中で、地元にないなら自分で立ち上げることを決めました。みんなに障害者スポーツのことを知ってもらうために、毎年8月に障害者スポーツの体験会を開催しています。またスポーツ推進委員としても、地元に関わり続けています。


2019年度開催の障害者スポーツ体験会

 私にとって学生ボランティアの方との出会いは、とても大きな意味を持っています。大学からゲストスピーカーを依頼されるようになり、自らの障害のこと、生活などについて話しています。学生さんたちに話す機会をもらったことで、生活の中の課題が何なのか考えることが増えました。また、大学に相談し、学生ボランティアの方を募集させてもらうつながりができました。学生ボランティアの方と出会ったことで、車いす生活になって初めて飛行機を利用して、2015年に沖縄で開催されたリハ工カンファレンスに参加し、発表することができました。いま現在も学生ボランティアの方が関わってくれていることで、私の活動範囲を広げてもらうことができています。


車いす生活になって初めての飛行機

私は障害者、高齢者が安心して地域生活を送るためには、訪問診療(往診)は外すことはできないと思っています。去年の10月に褥瘡を悪化させ、自宅のベッド上で療養することになりました。10月までは、褥瘡部分の写真をデジカメで撮影し、皮膚科受診していました。しかし、写真では褥瘡の状態はわかっても、深さなどはわからないということから、訪問診療(往診)で診てくれるようになり、何とか入院をせずに治療できることになりました。その時思ったのは、病院は治療をする場所で、地域医療は予防というイメージを持ちました。状態が悪化すれば、日常生活にも影響が及ぶことになります。早期発見、早期対応の環境整備には、医療と介護の連携が必要で、地域コミュニティの中に広がっていくことを求めています。
最後になりますが、人の繋がりをつくる手段は多く存在する中で、コミュニティはその手段の1つだと言えると思います。例えば、同じ趣味の人との繋がりを作ることも可能で、結局コミュニティは手段でありながら困っていることを解決するためのツールでもあると思っています。ツールであるということは、そもそもの目的や困ることがあるから必要になるはずです。ただ「コミュニティをつくりたい!」ではなく、「何かを達成する、困っていることを解決するためにコミュニティを広げたい!」と思うことが大切だと思います。


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