「縦横夢人」2020年秋号(No.30)2020年11月16日発行
特集
頸損ロードマップ
退院編
退院編
-病院を退院した時に準備するべきこと-
「ロードマップ 退院編」
明神 ひとみ
はじめに
私は1995年に交通事故での頸髄損傷(c4、5)で、受傷してからかれこれ25年近く経ちます。正直あいまいな記憶ではありますが、記憶を手繰り寄せながらQ&Aに答えさせていただきたいと思います。
Q 受傷してからどれくらいの時期で退院しましたか?
事故を起こしてすぐに救命センターに運ばれ、ハローベスト(頸髄損傷の際に装着するために頭蓋骨に直接ボルトを通して頭部と胸部を固定)を行う手術を受けました。はっきりとは覚えてはいないのですが、そこでは数週間お世話になりました。頸椎損傷の経過が悪ければ頸椎の手術を受けることになるので、優秀な先生がいらっしゃる国立病院を紹介して頂き、救命センターから国立病院に転院しました。
そこからの国立病院で新しい入院生活が始まり、退院までに二年近くお世話になりました。この長いようで短かった入院生活が終わる喜びよりも、不安の方が大きかったですが。。。色んな事において無知で、何をどうしていいのかどうする事も出来ずにいる私を、身体だけでなく心もケアして頂き、無事に退院する事が出来たこと。それに救命での的確な処置のお陰で転院してからは手術を受けることなく過ごせたこと。何より懸命に治療してくださった先生を始め看護師さんたちの心を受け、本当にただただ感謝の気持ちでいっぱいで病院をあとにしたのは今でも鮮明に覚えています。
転院先の病院では、頸髄損傷の患者を受け入れたのははじめてだったようです。それぞれの傷病においても病状や医療機関によって在院日数に大きな違いがあり、個人差はそれぞれにあるとは思いますが、私の場合は受傷してから救命センター、国立病院とで二年弱の退院となりました。
Q 退院後の住居は受傷前と同じでしたか?住宅改修を行った場合は改修した箇所や利用した制度についても教えてください。
元々私は、集合住宅、団地の四階に住んでいました。そこに帰るとなると、エレベーターもなく、バリアフリーでもなく、もちろんスロープもあるわけではないので、車椅子での生活は厳しいわけで。。。
退院したら車椅子世帯の住居に入居出来るように入院中に準備をしてくれてはいたのですが、色々と私情もあり、『そこには住みたくない!!』と…私のわがままから断念。。。今思えば本当にバカな事をしたな…と猛反省。 後悔の念で一杯の日々が待っており。結局は、元々住んでいた四階から向かいの棟の一階に引っ越しする事になりましたが、一階とは言え五段もの階段があり、もちろんスロープはありませんでした。
家の中は高齢者用住居のため、段差はなくバリアフリーにはなっていたのですが、お風呂やトイレには段差があり、入浴介助も訪問看護師さんに抱えてもらい、お風呂まで移動していました。賃貸住宅なので、もちろん勝手に住宅改修することは出来ませんでした。
たまたま出先で知り合いになった方が福祉用具の販売のお仕事をされており、その方も車椅子生活を送っており、 家の事情を話したところ、家に入る前の階段とベランダをスロープに出来るのか計測に来てくださりました。市役所の方と相談しつつ色々と調べて頂いたのですが、結局、階段とベランダの高さがあり、スロープを付けるには充分なスペースがなく断念しました。出掛けるにも一階とはいえ、階段五段登ってからの玄関。その五段をいつもヘルパーさんや友人や家族に抱えていただかないと出掛けることも出来ない現実。。。
日に日に、いつまでも負担をかけるわけにはいかないと…思う感情の方が大きくなりました。階段五段が大きな壁で、出掛けたい気持ちよりもその五段をクリアすることの方が大きくなっていくばかりでした。そのこともあって車椅子世帯の募集を何年も待ってたのですが。。。とあるその日もネットで調べていたところ、地元の府営住宅が建て替えられ車椅子世帯募集が何件か出ており、唯一私たちの条件に合う一件がありました。元々ここの住宅に引っ越すことは頭に入れてはなかったのですが、不意になぜかここしかない!と思い。。。でもいざ引っ越しとなると、高齢の母親も慣れ親しんだこの場所を離れさせていいのかと思う気持ちも多少ありましたが、家族に相談し応募したところ、見事に当選!
実際に引っ越ししてきてからは、お風呂にトイレもバリアフリー。エレベーターはもちろんありますが、私は一階ですので、玄関からもベランダがスロープになっており、出入りが自由にできるようになりました。変わらず皆様のお世話になりながらではありますが、お陰さまで快適に過ごせています。
介護していただく立場としても、自分のためにも、もっと早く住宅環境はきちんとしておくべきでしたが、退院当初はポケベル時代でネットワークはそれほど普及はしておらず。。。改めて社会と繋がる機会を増やし、コミュニケーションを持つことが本当に大事だと思いました。
かなり遠回りしましたが、、、よく耳にするADL「日常生活動作」をもっと向上させていきたいとも思えましたし。自分で出来ることが増えれば介護側の負担も軽減されるわけで、自分の喜びにも繋がり向上心を持つことができます。それにQOL「生活の質」も上がり、そのことによって幸せと感じれたりします。
生活の質も個人によって違いますが、それぞれの思う幸せをこれからも感じ続けていければと思います。