「縦横夢人」2021年春号(No.32)2021年5月10日発行
特集
ベテラン(慢性期)頸損者の健康
-受傷年数の経過で起きた変化やその対処法-
-受傷年数の経過で起きた変化やその対処法-
久々の入院生活
土田 浩敬
1、はじめに
特集は、慢性期における頸損者の健康について。私自身、若い頃は健康について余り考えていませんでした。そもそも、実家暮らしということもあって、食事は母親が作っていたので、バランスよく食べていたわけです。それが、20代後半から一人暮らしを初めて、環境が一変しました。そんな生活環境の変化から、年を重ねる度に体調も変わって来たのだと思います。私自身の年齢を重ねる事による、体調の移り変わりを書いていこうと思います。
2、若い頃
私は2005年、21歳の時に頸損になりました。現在は36歳。まぁまぁいい歳になりました。若かった頃は、身長177㎝で体重58㎏と細かったのですが、現在では75㎏。自分で言うのも何ですが、貫禄がつきましたね。(見た目だけ)一人暮らしを始めた頃の30歳前後から、体型も変わり始めたと思います。実家暮らしの時は、バランスのとれた食事に規則正しい生活でした。一人暮らしを始めて、食事の変化(主に単品の食事が多かった)と食事量、生活習慣の変化が体重増加に繋がったのだと思います。あと、活動的になり、ストレスもあると思うのです。
3、睡眠時無呼吸症候群
若かったころに比べると、睡眠時にいびきをかくようになりました。それも、30代になってからです。それまでは、静かに寝ていたのですが、少しずつ太り始めて、ぐっすり眠れていなかったのでしょうね、日中の会議中なんかは眠たくて、よく寝てしまっていました。
34歳の時に、近くにある病院の内科で受診したところ、重症の睡眠時無呼吸症候群と診断されました。睡眠時無呼吸症候群の検査を行うには、専用の検査キットを使うのですが、1時間に呼吸が40回も止まっているという検査結果が出ました。この結果に、内科の先生も呆れて半笑いで「土田さん、これは重症ですねぇ」と。
それから私は、CPAP(睡眠時に使う呼吸器)を使うことによって、症状が大分改善されました。病院を受診する時に、先生からCPAPの計測データを見て「大分良くなりましたねぇ」と言われるようになりました。
どうしても睡眠時は、仰向けで寝ているのでいびきをかきやすいということも、原因の1つだと思います。
4、骨粗鬆症
自分はまだまだ若いと思っていました。慢性期の頸損者は骨折しやすいと、よく耳にします。ここ近年、頸損の知り合いの方々が、次々と骨折していきました。それは、みなさん40代か50代のベテラン頸損者です。36歳のボクは「ボクはまだまだ大丈夫でしょ」「まだ30代だし」と他人事のように考えていました。
このコロナ禍により、ボクの生活スタイルも変わりました。36歳、もっと体調管理に努めないといけないと考えたボクは、訪問リハビリを取り入れました。コロナの影響で、時間的に余裕が出来たのと、訪問看護からセラピストを派遣出来るようになったからです。全ての条件が整い、これは訪問リハビリを、受けるべくして受けることになったと言えるでしょう。
そんな、訪問リハビリの初日、2020年の暮れのことです。訪問リハビリを受ける気満々のボクは、セラピストと雑談を交わしながらストレッチをしていました。あぐらをかいて前屈みになった時、少し違和感があったのですが、ストレッチが終わった頃には、何か分からない達成感と、これから身体のケアを努めていくことに希望を抱いていたのです。初訪問リハビリから数時間後、なんか体調が優れないと思うようになり、翌日、介護者が「右の太腿が腫れていますよ」と言いました。確かにしっかりとストレッチをしたので、肉離れを起こしたのだろうと思っていました。右脚を気をつけながら、時間が経てば、腫れも引いてくるだろと考えていました。しかし状況は全く変わらずで、太腿の腫れどころか、左右の膝の位置がズレているのです。明らかにおかしい、、、たかがストレッチでこんな風になるかなぁ、、、
訪問リハビリから2週間以上経った日、長年通っている泌尿器科の先生に脚の様子と、これまでの状況を説明しました。その状況を把握した上で先生にレントゲンを撮ってもらいました。
何となく考えていたのですが、嫌な予感が的中しました。先生も深刻な表情で、撮影したレントゲン写真を見ながら「大腿骨が折れてるわ。すぐに入院して、早く手術を受けなければ」と言われて、話が一気に進んでいきました。その話を聞いた介護者も、急過ぎる展開に動揺を隠しきれない様子でした。ただ幸いなことに、長年通い続けている病院ということもあって、慣れた環境と知り合いが多いということが、自分にとって救いとなりました。大腿骨頸部骨折で2日後に手術が決まりました。
無事に手術が終わって、術後の経過も良好です。しかし、なぜ骨折したのか。思い返してみれば、訪問リハビリのストレッチだと思うのです。私も頸損になって15年が経ち、立派な慢性期になるわけです。そして、今回の入院時に骨密度を測定してもらった結果が、健康な一般男性の骨密度と比べると、わずか44%しかないことが判明しました。重症の骨粗鬆症です。整形外科の先生も苦笑いを浮かべながら、次のように述べました。「頸損者になって15年が経って、やはり脚に負荷をかけない生活なので、大分骨がもろくなっていますね」
それから、現在は投薬治療をしながら生活しています。これ以上、骨密度の低下を予防して骨折しないように。
5、まとめ
慢性期の頸髄損傷者にとって、体調の変化は顕著に現れてくると思います。その中でも、自分は大丈夫と思っている人ほど要注意です。慢性期になってくると、30代でも骨は簡単に折れます。普段と違うことをする場合は、特に気をつけなければいけないと、自分に言い聞かせながら、頸損ライフを楽しみたいものです。