特集 ベテラン(慢性期)頸損者の健康 身体状況の変化 「縦横夢人」2021年春号(No.32)

「縦横夢人」2021年春号(No.32)2021年5月10日発行

特集
ベテラン(慢性期)頸損者の健康
-受傷年数の経過で起きた変化やその対処法-


身体状況の変化

PDF 身体状況の変化

橘 祐貴

はじめに

 今回の特集は、ベテラン(慢性期)頸損者の健康管理について取り上げることになりました。兵庫の頸損メンバーの中では若手だった私も気がつけば30代半ば。ここ数年は熱を出すこともほとんどなく、病院に行くことも少なかったのですが、最近になってちょっとした体調のトラブルに見舞われるようになってきました。20代の時には想定していなかった出来事もだんだん起こるようになり、[そろそろ生活全般の見直しをしないといけないな]と思うようになってきています。そこで受傷してから17年目、30代半ばの私に起きた体調の変化やその対処について紹介したいと思います。

増え続ける体重

 受傷してから20代の後半ぐらいまでは、体重が50kgに満たないガリガリの体形でした。ところが、30歳になったころ、鏡に映る自分の姿が以前よりもふっくらとしてきたように感じました。少し気になりましたが体重を量る機会がなく、「まあ55kgを超えたくらいだろう」と甘く考えていました。近所の支援センターに車いすに乗ったまま量れる体重計があることを以前聞いたので、相談で訪れたついでに量ってみると約58kgでした。想定以上の数字に「これは気をつけないといけないな」と思いましたが、1年後に再び体重を量ってみると何と約60kg…。自分が思っているよりも体重が増加していてショックでした。
 よく考えてみると、20代前半と比べて基礎代謝量が減っているのに食事量はあまり変わらず、最近は夏バテで食欲が落ちることもなくなっていました。体調が安定しているのは良い事ですが、このまま体重の増加を放置するのは、生活習慣病のリスクを高めることになり、よくありません。定期的に体重を量ることが健康管理にとても大事なのだと痛感しました。車いすのまま量れる体重計は場所をとるので、介護用リフトに取り付け るタイプの体重計を自宅のリフトの買い替え時に導入を考えています。

尿のトラブル

 頸髄損傷者で気をつけなければいけない健康トラブルの一つに尿路感染症があります。尿路感染を起こすと高熱が出ますし、腎臓に細菌が入ってしまうと命にかかわる危険性もあります。頸髄損傷者の中にはたびたび高熱を出す人も多いそうですが、私の場合は退院後に1度尿路結石で入院したことがあります。それ以外に大きなトラブルはなく、尿意があり自力で排尿することもできているので、10年近くの間泌尿器科にかかっていませんでした。
 ところが昨年末のある日、排尿しようとすると尿の出が悪く、尿に少し血が混じっていました。その後も頻繁に尿意を催すものの、尿器を当てても少ししか出ない状態が続いたので不安になりました。慌てて近所にある泌尿器科を検索して診察を受けましたが、「一度病院できちんと検査した方がいい」ということになり、病院への紹介状を書いてもらい、後日受診しました。検査の結果、結石や腫瘍ではなく膀胱炎ということが分かりましたが、頸髄損傷なのでこれから先のことを考えると、定期的な通院は必要だということで、膀胱炎が落ち着いてから通院先を決めることになりました。最初に処方された抗生物質が合わなかったようでなかなか症状が改善しませんでしたが、抗生物質を変えてしばらくすると尿の色や量が元の状態に戻ってきました。
 今回、膀胱炎になった原因の一つに便秘の影響が考えられました。ここ数年は数日以上排便がない時がしばしばあり、便が尿道を圧迫するせいからか、尿がなかなか出ないことがありました、泌尿器科の先生にその事を話すと、「可能性としては考えられる」とのことで、便が数日出ないときには便秘薬(酸化マグネシウム錠)を服用してみて様子をみることになりました。ただ、下剤を使うと下痢になりやすい体質なので、1日に2錠服用する程度にとどめ、後は野菜を多めに食べるようにしたり、意識的に水分を摂るようにしています。また、膀胱内にたまった尿を出し切るようにする薬(エブランチル)も服用しています。ただ、どちらの薬も「服用してから症状が目に見えるように改善した!」というわけではなく、「問題がないのならとりあえず服用しておこうか」という感じで服用を続けています。通院先が増えてしまいましたが、膀胱炎になったことをきっかけに泌尿器関係を診てもらえるところが見つかったのは、これから先のことを考えると良かったです。

皮膚状態の変化とかゆみ

 私は小さい頃からアトピー持ちで肌が弱く、受傷してからも肌のトラブルによく見舞われています。褥瘡になったことはありませんが、乾燥や蒸れで湿疹ができることは日常茶飯事です。湿疹ができる箇所は、以前は背中と腰の辺りが中心でしたが、最近は後頭部から肩の後ろや上腕にかけてかゆくなりやすく、かゆみがひどくなってくると、少しの刺激でも痙性が出てしまいます。痙性が激しくなるとベッドや車いすから転落しそうになったり、物を蹴とばしたりと大変です。私の場合は後頭部の生え際に手術の縫い跡があるためか、特に後頭部に湿疹ができてかゆくなると痙性が強く出ます。受傷後に意識が戻ると丸坊主だったこともあり、はじめのうちは髪を少し伸ばそうとしていましたが、最近はかゆみを我慢できずだんだん髪が短くなっています。また、散髪の頻度も最近は3~4週間おきと間隔が短くなってきました。以前は床屋で散髪してもらっていましたが散髪中に痙性が出る不安から、ここ2~3年は自宅で済ませています。

筋力と骨密度を維持するために

 自分で運動することが難しい頸髄損傷者は筋肉が少なく、骨に負荷をかけることがないので健常者と比べて骨粗しょう症になりやすいと言われています。私の周りでも骨折した人は何人かいますし、一度骨折すると生活全般に大きな影響が出ることも想像できました。気をつけてはいましたが、30歳の夏にベッドからシャワーキャリーへ移乗する時に転落し、足の甲をはく離骨折してしまいました。近所の整形外科でレントゲンを撮影すると、思っていた以上に骨の影が薄くなっていて骨密度が低下していることがわかりました。かなりショックでしたし、「30歳でこの状態だと、10~20年先はどうなってしまうのだろうか?」と不安になりました。

受傷してから初めての骨折

 当時は電動車いすを作成しようとしていて、前傾ティルト機能をオプションで付けようかどうか迷っているところでした。機能を追加すると金額がかなり上がるので躊躇していましたが、骨折をきっかけに追加することに決めました。どのくらい効果があるのかはわかりませんが、電動車いすに乗る時にはお尻の圧抜きも兼ねて数分~10分程前傾ティルトを使用して足に荷重をかけています。はじめのうちは立った後にほどよい筋肉の疲労感があり、「身体を使ったな」と実感がありましたが、最近はだんだん慣れてきて少し物足りなく感じています。身体を動かすことは嫌いではないので、立つ以外に何か自分でできる運動を見つけたいです。

これから先も健康を維持していくために

 受傷してから10数年がたち、年齢も30代半ばになった私の体調の変化について振り返ってきました。今のところは大きなトラブルもなく過ごせていますが、若さで何とかなる年齢でなくなってきつつありますし、これから先もいろいろな身体の変化が起きてくると思います。
 日常生活全般に介助が必要な頸髄損傷者の場合、ちょっと体調を崩すだけでも生活に大きな影響を受けます。生活を維持していくためにも自分の健康を管理していくことは大事です。これから10~20年先もアクティブに活動できるように、健康管理に気をつけていきたいです。


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