特集 ベテラン(慢性期)頸損者の健康 頸髄損傷者の加齢 「縦横夢人」2021年春号(No.32)

「縦横夢人」2021年春号(No.32)2021年5月10日発行

特集
ベテラン(慢性期)頸損者の健康
-受傷年数の経過で起きた変化やその対処法-


頸髄損傷者の加齢

PDF 頸髄損傷者の加齢

𠮷田 一毅

 頸髄損傷者となってから20余年。その年月を、健康という視点から振り返ると、健康管理は生活の中心にあったのだと改めて思います。生活の基盤は健康であり、基盤である健康を良好に保つことができれば、その上に築かれる日々の生活も、より良いものになっていくと思います。
 頸髄損傷者にとって、健康管理における最重要課題のひとつである褥瘡予防。50歳を過ぎ、褥瘡予防をはじめ、健康管理は年齢に応じて変えなければいけないと思うようになりました。
 頸髄損傷者の加齢対応について褥瘡を中心に、そして、頸髄損傷にかかわらず、加齢全般についても述べたいと思います。

〇やっぱり褥瘡予防

 大病や怪我等なく概ね健康であったとしても、日々の体調が良くなければ、日常生活には多かれ少なかれ支障をきたします。褥瘡についても、この程度ならまだ傷は小さいからと、つい油断してしまいます。大事には至らんやろうと変にポジティブになりますが、本当は、面倒くさくて後回しにしているだけです。そのことは自分が一番分かっていながら、そうやって褥瘡になっていくことは経験しているのに、同じことを繰り返すのは何故でしょう?自覚が足りないと言ってしまえばそれまでですが、それだけでしょうか?
 私は、今日までのところ、褥瘡での入院やオペには至っていないものの、長期間通院しての治療を要したことがあり、大事な予定を断腸の思いでキャンセルしたり、頼まれごとを断ったりしたことがあります。そのことは、今でも大変悔やまれます。もうそんな経験はしたくないと思いながら、ちょっと前に、また、お尻に小さな傷ができて、滲出液が出たり出血したり、そして一時的に治ったりを繰り返していました。
褥瘡ができる主な原因は、圧がかかった皮膚の血の巡りが悪くなるからで、不衛生であったり蒸れたりすることも一因であるという知識は持っています。しかし、今回つくってしまった傷はこれまでとは異なり、皮膚の乾燥が主な原因のようです。衣類や寝具にほんの微量の血の付着を見つけた時、出血がどこからのものかわからず、傷が目視できる大きさになって初めて、乾燥した皮膚がひび割れし、そこから出血していたのだと分かりました。これまで、乾燥が原因で傷になるなんてことはなく、驚きました。乾燥でガサガサに荒れてしまった皮膚は、すぐには元に戻らず、保湿に気を配って予防しなければいけないのだと知りました。

〇加齢は既に訪れていた

 20余年前、頸髄を損傷して間もない頃、頸髄損傷者の合併症について、看護師からいろいろと話を聞く機会がありました。一昔前は、頸髄損傷者が短命であったと聞かされたことを覚えています。私が受傷した頸髄4番5番でも、助からない人が結構いたということや、頸損歴が10年、20年の人はそんなに多くはおらず、感染症で亡くなる人が多いということも聞きました。しかし、医学は進歩し、今では、頸髄損傷者も長く健康に暮らすことができます。そして、それは同時に、頸髄損傷者も年齢に応じて生活習慣を見直したり、健康診断を受けたり、長い目で健康と向き合うことを意味します。頸髄損傷者であっても、頸髄損傷そのものに向き合うだけではなく、加齢にも対応しなければなりません。
 加齢は…気付けば、自分にも訪れていました。記憶力の低下や老眼はとうに始まっており、そして、皮膚も例外ではありませんでした。思い返せば、ちょっと爪で皮膚をひっかいただけでも放っておくと赤く腫れたり、いつぶつけたのかわからない青あざを見つけたり、目に見える変化はありました。自然治癒力が落ちているのだろうとは思っていましたが、既に、褥瘡リスクも上がっているということには気付かなかったのです。
 褥瘡を繰り返しつくってしまうのは何故か?ひとつには、若い時の褥瘡治療で上手くいった経験、例えば、もっとひどくても治った…とか、この前よりまだマシだ…といった経験が、正しい判断を遅らせているのかもしれません。若かりし頃と比べてはいけません。加齢を正しく理解しなければ、油断がうまれるのではないか?加齢は必ず訪れます。加齢を正しく知っておくことも、褥瘡予防のひとつということなのでしょう。

〇保健指導を受けて

 定期的に受けている健康診断。健康状態は数字によって明らかにされます。40歳を過ぎる頃から、中性脂肪が基準値を超えてしまったほか、善玉コレステロールが基準値を下回ったり、体重が徐々に増えたり…。食事で脂質を控えるよう心掛けていたものの、3年前にはついにメタボの判定が下されました。そして、このままではいけないと思い、保健指導を受けることにしました。
 その保健指導は動機付け支援というもので、私にとっては衝撃でした。糖質の取り過ぎでも、中性脂肪値が上がることがあるとは、知りませんでした。高脂血なのだからと、自己流で脂質を控えるなどしていたのですが、善玉コレステロールが低いのも、お尻の皮膚がガサガサに乾燥してしまったのも、脂質を控えたからなのだろうか?自己流はダメです。知識は正しく身につけないといけません。身をもって知りました。
 生活習慣を見直せば、メタボは解消できるということで、食習慣から見直すことにしました。専門家のアドバイスに従い、お昼のインスタントラーメン、間食の煎餅を控え、ご飯の量を少し減らしました。こぢんまりと盛られたご飯を見ると寂しいので、ご飯が多く見えるよう、茶碗を少し小さいものに買い替えました。また、果物も少しずつとるようにしました。改善の経過をレポートで報告することになっていたので、さぼらず続けられました。成果が出ると褒めてもらえたので、なかなか嬉しかったです。期間は3カ月間でしたが、腹囲は基準値以下に!翌年の健康診断では、中性脂肪値が大幅に下がりました。善玉コレステロールは、残念ながらさほど変わらずですが、やればできるのです!保健指導では、高い目標を立てたわけではなく、達成可能な目標設定だったことで、一通りの成果を得られたのだと思います。

 その後、インスタントラーメンはすっかり食べなくなり、間食の煎餅は食べますが、習慣的に食べるということはなくなりました。改善によって、食べる楽しみを犠牲にしたとかの感はなく、むしろ、たまの外食、飲み会や旅行での食事は、今まで以上に楽しめるようになりました。

〇節目の年齢に

 一昨年前、節目の年の50歳、出身高校の同窓会がありました。10年振りなので、そろそろ自分以外にも車イスいるかな?と、思いながら出席。しかし、10年前と同様、車イスは私だけでした。ところが今回は前回と異なり、この10年間で亡くなった同級生が少なくないということを知りました。驚くと同時に、そんな年代になったのだと実感したのでした。私が頸髄を損傷したのは20歳代。受傷して間もない頃は、自分は頸髄損傷なのだから、皆より先に死ぬのだろうと思っていたものです。しかし、この歳になって死生観が変わったというか、健康は自ら築くものと思っています。
 次の同窓会はまた10年後、還暦となる60歳。赤のちゃんちゃんこを着て再会しましょう!ということなので、赤の車イスで行こうと思っています。そのためにも、健康でいなければと思ったのでした。

〇おわりに

 健康管理は、当然この先ずっと続けるのですが、加齢と戦うわけではなく、時の流れに逆らうわけでもありません。せっかく健康を維持しているのなら、大袈裟ですが、人生の楽しみを持つことも忘れないでいたいと思います。
 私はスポーツ観戦が好きで、年に何度かはスタジアムにも足を運びます。車イス席には、お年を召された方も見かけます。そのスポーツ観戦を楽しむ姿に、最近は、そう遠くない未来の自分の姿を重ねて見るようになりました。あんな年の取り方なら、悪くないなと思いながら。
 健康であり続けるということは、到達することのない目標といえるのかもしれません。加齢とは何か?数年前まではピンとこなかったのですが、スタジアムに足を運べるくらいの健康を、維持していきたいと思っています。


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