「縦横夢人」2021年夏号(No.33)2021年8月16日発行
特集
介助者(支援者)とうまく付き合うために
-今までの経験談や工夫していること-
-今までの経験談や工夫していること-
介助者(支援者)とうまく付き合っていくために
伊藤 靖幸
事故で頸髄損傷になってから実家暮らしが約6年半と一人暮らしが約6年半。介助者がいてくれたから生活が出来ていました。長かったような短かったような…まだ生活は続きますが!実家暮らしの時は、主に家族が介助してくれていましたが、一人暮らしになると介助してもらうのは、全て介助者です。長い頸髄損傷人生の中で、介助者とどうかかわってきたのかお伝えします。
Q受けている介助の内容について教えてください
A頸髄損傷の障害により、身体がほとんど動きません。その為、生活のほぼすべてを介助してもらっています。身体介助については、移乗・入浴・着替え・ケア処置等です。家事については、食事・掃除・洗濯等です。外出については、買い物や公共交通機関の金銭介助・体調管理です。
Q介助を受ける上で何か工夫していることがあれば教えてください
A外出では雨が降った時に、介助者に傘をさしてもらうのではなくて、カッパを着るようにしています。理由は、介助者が傘で2人をカバーするのは負担が大きいからです。
身体については、ベッド上でケア処置してもらう時にお互いが安心安全に行うために、介助者が負担のないベッドの高さにあげてもらっているのと出来る限り介助しやすいスペースを作っています。それと伊藤が見えないところ(お尻や鼠径部等)は写真を撮ってもらったり、何をしているのかを伝えてもらうようにお願いしています。
家事については、食事を介助者の得意不得意を考えてお願いしています。介助者によって調理が苦手という方もおられます。そういう方には難しい調理はやめて、作り置きやレンジでチンすれば出来る料理をお願いしています。
調理が上手に越したことはありませんが、調理がうまくなるために介助に入っているわけではありませんので、そこらへんは介助者によって作ってもらう調理を考えています。
介助者には介助に入ってもらう前に、軽いストレッチをしてもらうようにお願いしています。これは、予防の観点からです。特に冬は外と中の寒暖差で筋肉がこわばってしまい、体が硬くなりやすいです。そのまま介助に入って、力を入れる場面が来たら怪我をしやすくなります。そうならない為にも介助者には、軽いストレッチをお願いしています。最後に特に気を付けているのが、連続した介助の時は、小休憩してもらうよう声掛けをすることです。私は、重度訪問介護という介助者一人で長時間の介助で入ってもらっています。やはり長時間の勤務はしんどいので、ひと段落したら小休憩をとってもらうよう声掛けをしています。介助者として入ってからの期間が短い方は、まだ慣れていないので肉体的・精神的に早く疲れがきます。それでも休憩なしで介助を続けていたら嫌になって辞めてしまいます。介助者には長く続けていてほしいのでこちらから声をかけるようにしています。これは、長く入ってもらっている介助者にも行っています。慣れてきたことで時間はかからなくなりますが、疲れている事には変わらないので小休憩をとってもらうよう声掛けをしています。
Q過去を振り返ってみて「こうしておけばよかった」ということはありますか?
A高次脳機能障害の検査をもっと早くしておけばよかったなと思っています。早く高次脳機能障害だと分かっていれば、介助者に違う説明をして迷わすことや困らせることを少なくすることが出来たんじゃないかなと思います。私の高次脳機能障害の症状は、記憶障害と注意障害です。記憶障害では、覚えられない・忘れてしまうなどがあり、注意障害では、集中しすぎてしまう・周囲の状況を判断せずに行動を起こそうとすることがありました。検査を受けて診断されなければ、高次脳機能障害だと分かりません。診断が出ないと正しい対処や対策が立てられません。だから早めに検査を受けておけばよかったと思っています。高次脳機能障害で介助者とうまく付き合っていくために、「記憶整理ノート」というノー
トを作りました。何枚かあるんですが一番よく使う「予定表」を簡単に説明します。予定表は、伊藤の予定を作って(書いてもらう)その予定がどうなったか記入してもらうという用紙です。予定表を使うことで介助者が迷わない・やることが分かりやすくなりました。今でも使っていて、介助者ともうまくいっています。
Qこれから介助を受ける後輩頸損者へのアドバイス
Aしてほしいことを介助者に伝えましょう。最初は伝わらずイラっとする事やため息をもらすこともあると思います。でも、諦めずにお互いが理解するまでコミュニケーションをとりましょう。介助者は一人一人違うため、やってもらいたい事(ゴール)は変えずに道筋(やり方)は違ってもいいんじゃないかと思います。また、性格や癖、どういう言い方だとわかるかまで考えて教えてあげたらと思います。もう一つ、左右を伝える時に、介助者からみて右や私からみて左とかいうよりも、〇〇〇がある方と説明したほうが分かりやすいです。心がけていることは介助者と対等な関係性を築くことです。介助を受ける当事者が上とか介助者が下とかではなく、対等な関係になれば介助者ともいい関係になれるんじゃないかと思っています。そして、介助者への気遣いも大事だと思います。例えば、夜勤に入ってもらう介助者のために寝具の洗濯や掃除、夏であればアイスノンや扇風機を使ってもらうなど出来ることはしています。介助者が働きやすい環境を作ってあげることもいい関係性を築く上で大事なことの一つではないかと思っています。そして、一番大事なことだと思っていることが、小さなことにも感謝を伝えることです。「ありがとうございます」を毎日、何十回も言っています。
Qこれからどのような生活を送りたいですか?今後の目標があれば教えてください。
A重度障害者が一人暮らしをしていくには、介助者は必要不可欠です。だからといって介助者に媚びていると、しんどくなり長くは続きません。対等な関係で介助に入ってもらい、やりたいことに挑戦する時、最高のサポートをしてくれる介助者を一人でも多く作っていけたらと思っています。