特集 介助者(支援者)とうまく付き合うために 橘 「縦横夢人」2021年夏号(No.33)

「縦横夢人」2021年夏号(No.33)2021年8月16日発行

特集
介助者(支援者)とうまく付き合うために
-今までの経験談や工夫していること-


介助者とうまく付き合っていくために

PDF 介助者とうまく付き合っていくために

橘 祐貴

はじめに

 今回の特集のテーマは介助者との関係についてです。頸髄損傷者が地域で生活を送るためには介助者の存在が重要ですが、私も初めのころは(今もかもしれませんが…)介助者とどう接したらいいのか悩みました。それでも在宅生活を始めてから15年がたって、「介助をお願いするのにこういうところに気をつけたら相手に伝わりやすいな」というポイントも何となくわかってきました。私の経験がどのくらい役に立つのかはわかりませんが、少しでも参考になればと思います。

主な介助者は誰ですか?

 2年前から実家の近くで一人暮らしをしていて、主な介助はヘルパーさんにしてもらっています。この原稿を書いている7月上旬時点で5つのヘルパー事業所を利用しています。また、ヘルパー以外に週に1回訪問リハビリを利用しています。訪問看護は利用していませんが、排泄等でいずれは利用しようと考えています。
 私は生活全般において介助が必要ですが、重度訪問介護の支給時間の問題で長時間連続してケアに入ってもらうことが現状では難しく、朝・昼・夕方・夜に2~3時間ずつ介助に入ってもらっています。平日の日中は一人でいる時間が1~2時間と短めですが、週末や夜間はヘルパーのシフトの関係で1人の時間が長く、夜のケアが終わってから朝のケアが始まるまでは10時間以上あいてしまいます。さすがに私の身体状況でこれだけの長時間を1人で過ごすのは難しいため、事業所がまだ決まっていない時間帯や早朝は実家から両親に来てもらって、トイレの介助やゴミ出し等を手伝ってもらっています。

受けている介助の内容について教えてください

 日常生活全般において誰かの介助が必要なので、受けている介助の内容も排泄・着替え・移乗・食事・入浴…と様々です。基本的に1人での介助ですが、入浴(シャワー浴)の時はヘルパーの2人介助が認められていて、週4日利用しています。1回当たり2~3時間という限られた訪問時間の中で、調理を含めたすべての介助をてもらうのは正直言ってかなり難しいです。特に担当に入ったばかりのヘルパーさんだと、どうしても介助に時間がかかってしまいます。そのため、あらかじめ別の日に作り置きの食材を作ってもらいストックしておいたり、実家からおかずを持ってきてもらったりして調理の時間を省くようにしています。

過去を振り返ってみて「こうしておけばよかった」ということはありますか?

 在宅生活に戻ってヘルパーを利用し始めた頃は、自分がしてもらいたいことを介助者に伝える事がなかなかできず、相手も何をしたらいいのかわからなくて困ったと思います。介助を受けるうえで「今自分は何をしてもらいたいのか」を相手にきちんと伝えるということが大事ですが、うまく伝えることができずに「やっぱり後でいいや」となってしまうことがありました。自分には何の介助が必要なのかを自分自身がわかっていないと介助者に何をしてもらいたいのか適切に伝えることはできないと思います。
 また、介助者の中には頸髄損傷者のケアに入るのが初めての人が多いので、自分の身体の特徴を介助者に理解してもらうことも大事だと思いました。頸髄損傷者の場合だと痙性や起立性低血圧が起こることがありますが、そのことについて知識のない人にとっては何が起きたのかわからず、どうしたらいいのか戸惑ってしまいます。私の場合は足を伸ばしたりした時に痙性が出て、反動で足が曲がって介助者を直撃…ということや、車椅子の時に痙性で前倒れして落ちかけるということが何度かありました。
 一人暮らしを始めた時に失敗だったのは、生活全般の準備ができていなかったことです。身体的な介助のことばかり気にしていて、家事等その他のことまではあまり考えていませんでした。「まあ何とかなるだろう」と思っていましたが、そううまくはいきませんでした。洗濯機や電子レンジの使い方(ボタンの位置)や物の置いている場所を聞かれてもすぐに答えることができませんでした。私自身が使い方を把握していないので、「多分これだろう」と思って失敗することがありました。初めての一人暮らしですし失敗することが当然なのかもしれませんが、もう少しきちんと準備をしておけばもっとスムーズに一人暮らしを始めることができたのではないかと反省しています。

介助を受ける上で何か工夫していることがあれば教えてください

 介助者に何かを頼む時には、相手が分かりやすいような表現を使うように気をつけています。特に左右の方向を指す時は間違いが起きやすいので、「部屋の窓側・壁側」と言うように気をつけています。また、慣れていない人でも分かりやすいように介助の大まかな流れや車いすの使い方を説明する文書をプリントしていて、わからない時は見てもらうようにしています。薬についても皮膚科の塗り薬は種類が多いので確認してもらうようにしています。
 また、複数の事業所がサービスに入っているので、事業所間の情報の共有も大切です。私の場合は共有の介護ノートにその日の介助内容を記入してもらうことで、別の事業所のヘルパーさんとも情報を共有するようにしています。また、通院等の予定や日用品や食材で買い足さなければいけないものをホワイトボードに記入してもらうようにしています。ヘルパーさんも何の予定があるのかわかりますし、私も聞いただけだと忘れてしまいやすいので、メモすることはとても大事です。

これから介助を受ける後輩頸損者へのアドバス

 初めのころは介助者に何をどう頼んだらいいのかわからないかもしれません。自分が生活をしていくうえでどんなサポートが必要なのかをあらかじめシミュレーションしておくといいと思います。それでも実際に生活を始めてみるとうまくいかないことだらけなのが普通なので、いろいろ経験してみて少しずつ慣れていくしかないと思います。
 また、私の場合は奇跡的に在宅生活を始めた頃からの介助者がいますが、同じ人がずっと担当という事はまずないことです。特定の人に頼ってしまうと、その人がケアに入れなくなったときに困ってしまいます。難しいことではありますが、どんな人が来ても介助を頼めるようにしておく方が絶対にいいです。

これからどのような生活を送りたいですか?今後の目標があれば教えてください。

 病院を退院して在宅での生活を始めてから15年がたちました。一人暮らしを始めてからも2年になりますが、今の生活がうまくいっているとは思えません。介助者との付き合い方も介助時間が短いこともあって、なかなか丁寧に教えることができず、お互いが時間に追われてバタついています。また、いまだに両親に手伝ってもらうことが前提の生活を続けているので、まずは両親に頼ることなく生活ができる介助時間の確保に向けて交渉していくつもりです。介助者の確保ができたらもう少し生活の余裕ができるのではないかと思います。
 まだまだ不完全とはいえ、一人暮らしを始めるという目標は達成できました。しかし、就労するまでには至っていません。こちらは現状では、仕事中の公的ヘルパーの利用が認められていないので、まずは制度の改正が必要になります。それでも重度障害者の国会議員が当選したことで制度の見直しの議論も出ていて、近いうちに道が開けるのではないかと思っています。
 これから先、どんなに福祉機器が発達しても私のような頸髄損傷者が地域で生活していくには介助者が必要です。現在でも介助者探しに苦労していますが、これから少子高齢化が進んでいく中で、介助者の確保が今以上に難しくなるのかもしれません。介助者に入ってもらいやすいような環境づくりを利用者側もしていく必要があると思います。私自身がまだ手探りの状態ですが、少しずつ改善していきながら介助者と付き合っていきたいです。


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