「書評」頸損解体新書2010 兵庫県立総合リハビリテーションセンター 澤村誠志

「書評」

頸損解体新書2010

兵庫県立総合リハビリテーションセンター
澤 村 誠 志

今回全国頸髄損傷連絡会より、1991年から19年ぶりに新たに「頸損解体新書2010」が出版された。かねてから三戸呂克美会長や宮野秀樹事務局長の地元にいて、私の常識をはるかに超えた頸損損傷者連絡会の自立生活に向かっての素晴らしい行動力を垣間見ながら、常に頭が下がる思いをしてきた。1991年の実態調査後の医療技術とリハ工学技術の進歩により、人工呼吸器を使用する頸髄損傷者も在宅生活に移り、QOLが向上している人びとが増えている。しかし一方では、制度の谷間に取り残され、情報に接する機会もなく、適切なリハビリテーション医療が行なわれていない現実の姿がある。その立場から、改めてこの頸損解体新書2010に接し、全国頸髄損傷者連絡会の持つ情熱、企画性、調査に基づく数々の提案、今後の目指す方向についての多くの示唆を得る事ができたことに感謝したい。
本書は、第1部に17人の頸髄損傷当事者からの受傷後からの社会参加までの生々しい体験が語られている。医療従事者、とくに頸損者のリハに精通した専門職の不足やケアのニードが高いために、地域病院において人工呼吸器使用重度障害者の受け入れを拒否している現状は何としても弁解の余地がない。この障害当事者の生の声をすべてのリハ医療従事者、特にリハ専門医に届かせたい。長くリハビリテーション医療に関わってきた一員として、国際的に最低の医療費政策による医療崩壊がおこりつつある中で、頸髄損傷者の方々のニーズに応える医療体制をとることのできない無力さ、歯がゆさを感じざるを得ない。診療報酬上恵まれない環境を打破するためには、不採算医療である頸髄損傷を発達障害、高次脳機能障害などとともに、国の政策医療として位置づけ、専門医療従事者の確保充実を図らなければ永久に解決できないのではないか。第2部には、改めて全国の頸髄損傷者3,790人に問いかけ、736名の方々の分析が行われている。 地域間格差、重度頸髄損傷者が抱える問題、高齢化と性別による問題、健康、生活環境、外出の壁、就労の壁、自立生活と社会参加を促進する上で必要な社会的支援のありかたに関する基礎資料が作成された。まさにこれこそ障害当事者の目線での貴重なデータである。この調査の結果を受けて、第3部では、17年前と比較した頸髄損傷者の生活変化から自立生活と社会参加の促進に向けた多くの提言がなされている。自立生活に向けての社会的条件整備の課題として、頸髄損傷者の拠点となる医療機関の整備、専門職の養成、自立支援システムの構築、住環境・福祉機器の整備、交通・まちづくり、雇用・所得保障、そしてセルフヘルプの意義と重要性が述べられている。
 国連の権利条約の批准が行なわれ、我が国はようやく障害者基本法の改正、差別禁止法の制定、総合福祉法の制定に向けて動きつつある。誰もが、365日24時間安心して、住みなれた地域で、仲間と共に、活き活きと住み続けるインクルシーブ社会の創造を目指したい。その意味で、本書の果たす役割や意義はきわめて大きい。医療関係者だけでなく、社会福祉、職業、教育、リハ工学、まちづくりに関係する方々に是非一読をお勧めしたい。

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