特集 これからの頸損ライフを考える 「縦横夢人」2019年秋号(No.26)

「縦横夢人」2019年秋号(No.26)
特集 これからの頸損ライフを考える

「これからの頸損ライフを考える」

PDF これからの頸損ライフを考える

兵庫支部 島本 卓

 私は頸髄損傷になって13年目になります。受傷した原因は、知人が運転する車に同乗していて、自損事故を起こしたことでC4番を損傷し、完全四肢麻痺になりました。事故から13年目になりますが、まだ事故の和解ができておらず、今後裁判を行う予定で準備を進めています。
 退院後は両親と一緒に実家で生活を始めました。実家で在宅生活を始めた際は、居宅介護の福祉サービスを利用していました。1日平均3時間の福祉サービスを受けていて、その他の時間帯は主に母親が私の介助をしてくれていました。そして、母親は日々の疲労が限界に達してしまい、平成28年9月に体調を崩しました。私は「このままでは、まずい」と危機感を持ちはじめ、そのことをきっかけに自立生活を本気で考えるようになりました。
 まず、最初に不動産屋に行き、生活をするために必要な物件探しから始めました。探し始めて5軒目にして、「ここならできるかも」と思える物件を見つけることができたので、平成28年2月に単身で引越し、姫路市で1人暮らしを始めました。現在、生活をしている物件は、バリアフリー物件ではありません。一般的な部屋を賃貸で借りています。なぜバリアフリー物件を選ばなかったかというと、選択できる物件数がとても限られてくることに気づかされたからです。また、私が物件を探すときに、お風呂とトイレを利用できるスペースがあるのかが不安でした。そこで、同じ頸髄損傷の先輩に相談をしてみることにしました。先輩からは、お風呂とトイレのことを考えすぎずに、まずは電動ベッドを置ける空間を確保することが重要だとアドバイスをもらいました。アドバイスを元に不動産屋に相談し、現在生活している物件に決めました。
私は日中、電動車いすに乗って生活をしています。家の中のレイアウトも電動車いすで動きやすいように考えました。また、私の生活の中で、移動用リフトはとても重要な存在です。移乗用リフトについては、四隅に柱を立て、その中をXY座標で移動できる「アトラスクロス」という製品を使っています(図1)。この移乗用リフトを取り入れた理由は、生活スペースを最大限に活かしながら使いたいという思いがありました。また、災害時のことも考えてコンセントタイプではなく、バッテリー式で充電タイプのものを選びました。そうすることによって、停電時でも移乗用リフトを使って、電動ベッドに戻ることができると思いました。


図1 アトラスクロスを設置

 そのほかに、一般機器の「eRemote RJ-3 イーリモート」を使うことによって、エアコン、照明、テレビなどをスマートフォンで登録し、機器を操作することができます。この機器を使おうと思ったきっかけは、以前までは環境制御装置を使っていましたが、機器本体が大きくスペースが必要で、セッティング時にも微調整が必要となることが手間と感じるようになったからです(図2)。「eRemote RJ-3 イーリモート」を取り入れたことで、環境制御装置に近い機能が使うことができました。スマートフォンで操作ができるのと、微調整が少なく使いやすいと思ったからです。あとWi-Fi機能を使うことによって、外出先から帰宅に合わせて自宅にあるエアコンを遠隔操作することができます。帰宅して玄関を開けると、冷房と暖房が出迎えてくれるんです。一つ残念なのは、電動ベッドの操作ができないことです。ネット通販で購入でき、価格もリーズナブル、登録も数秒と簡単なのでおすすめです。


図2 おにぎりサイズで省スペース

 私が不安としていた2つについて、①トイレは膀胱瘻を造設済みで、排便についても曜日を決めてベッド上で行うので直接自分でトイレを利用しません。②お風呂については、移乗用リフトを利用しながら入浴を行っています(図3、4)。


図3 我が家のお風呂

図4 シャワーで洗い流す

 現在は、重度訪問介護を397時間支給されています。私の場合、一つのヘルパー事業所で調整をお願いできているのですごく助かっています。また、日中も訪問をしていただいているのですが、私が一番不安だった夜間帯については、自立生活スタート時に相談したので、訪問に入ってもらえています。長時間一人でいる不安がある中で、何よりも体温調整と尿トラブルが一番恐怖を感じます。1ヶ月、397時間で1日当たり平均13時間では生活を回していくのがとても大変です。
 私は交通事故で頸髄を損傷したので、独立行政法人事故対策機構「NASVA」の介護料申請をすることができました。申請が承認され、上限金額は決められていますが、その金額内であれば福祉サービス、訪問看護など自己負担で利用した料金について支給対象として認められます。また、福祉用具のレンタルや購入にあたって、対象商品であれば支給対象として認められます。重度訪問介護で足らなかった時間を、独立行政法人事故対策機構「NASVA」の介護料で利用することができています。しかし、時間数はまだまだ足りていないのが現状です。今の生活状況や環境から見れば、自立生活をスタートさせたことに後悔はなく、毎日が楽しいと思えています。だからといって私が生活を続けていくためには、福祉サービスを利用することが重要です。福祉サービスを利用することはできていますが、安心して生活できているかと言われると「できていない」という答えになります。なぜなら、毎日1人でいなくてはいけない時間があるからです。
 私が安心して生活をしていくためには、1日24時間の支給時間を認めてもらうことが必要です。生活を時間で決められるのは、大変辛いことです。不安を抱えて生活したくないと障害者だけが思っているわけではなく、誰もが不安を抱えることなく安心して生活がしたいと考えるはずです。ただ困ったという理由だけではなく、行政に重度障害者が地域でどのような生活をしているのか。どのような支援体制と環境があれば、安心して生活できるのか。といった部分について一緒に考えてもらう機会を作っていきたいと思っています。実現するために、今後も諦めず、行政に交渉していき、支給時間の増加が認められることを目標にやっていきます。


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