連載 Road to Paralympic 第9回 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン 「縦横夢人」2019年秋号(No.26)

「縦横夢人」2019年秋号(No.26)
連載

Road to Paralympic
第9回 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

PDF Road to Paralympic 第9回 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン

宮野 秀樹

 ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)を知っていますか?USJといえば、言わずと知れた“関西が誇る”子供から大人までが楽しむことができるエンターテイメントを集めた一大テーマパークです。CMでもよく流れているので、おそらく知らない人の方が少ないと思います。私も過去に4回ほど訪れています。

 そんな有名なUSJですが、今年の3月に「障害者の自立と完全参加を目指す大阪連絡会議(以下、障大連)」が「障害者100人でUSJへ」という企画で大チェックを行ったのをご存知でしょうか?今年になってUSJの運営元が米の大手メディア会社に買収されたことで、障害を持つアメリカ人法(ADA法)が制定された国の基準になれば、障害がある人もない人も同じように楽しむことができるテーマパークになるはずと期待しての企画であったと聞いています。「アメリカ基準(造語です)」となって障害者がどこまでUSJを楽しむことができるのか?を検証する楽しい企画とあって、私も参加する気満々でしたが、残念なことに他に予定があったので参加を断念しました。

 そんなところに今回「USJを調査しに行こう!」という話になり、電動車椅子を含む車椅子ユーザー8名と介助者20名の総勢28名で行くことになりました。アメリカ基準というものがどういうものなのか?興味がありましたが、何よりも「障害者が楽しめるようになっているのか?」に関心がありました。そんなワケで、調査というとどうしても堅苦しいものになってしまうため、遊ぶこと・楽しむことを前提に電動車椅子ユーザーがどこまで楽しめるのか?を検証しようと考えました。私が楽しめたかどうかを報告したいと思います。
 JR三田駅からJR福知山線・丹波路快速に乗りJR大阪駅へ。JR大阪駅でJR環状線からJR桜島線に直通で乗り入れる電車に乗り換え、目的地であるJRユニバーサルシティ駅に到着。所要時間1時間20分といったところです。私のような無人駅しかない田舎に住む者にとっては、スムーズな電車移動ができること自体が驚きでしかありません。
駅からUSJに続くメインストリートを抜けると、お馴染みの地球儀のような看板「ユニバーサル・グローブ」が目に入ってきます。ロゴがしっかりと見えるので、撮影スポットとして人が溢れかえっていました。我々もパチリ。

 入場ゲート前では、今年の6月にあったG20大阪サミット開催に伴って実施された警備強化のための手荷物検査が、サミット終了後も継続して行われていたため、これまた人でごった返していました。かなり入念に検査が行われており、私も手荷物の検査を受けたのですが少し疑問が残りました。というのも、介助者はリュックやボディイーバッグを開けさせられて細かく調べられていたのですが、私は膝の上に乗せていたボディーバッグを開けられることもなく検査を通過しました。障害者への配慮かもしれませんが、あまりに警備が緩すぎやしませんか?なんとなくモヤモヤが残ります。

 朝10時過ぎですから時間はたっぷりあります。手始めにジョーズのアトラクションに向かいました。ジョーズは、以前から電動車椅子で利用できるアトラクションだったのですが、いつの頃からか車椅子で乗ることができなくなり、昨年12月に車椅子乗車が復活したと聞きました。何か変わったことがあるかと検証するために乗りに行きましたが、少し不快な思いをしました。アトラクション入り口まで行き、クルーに利用したい旨を告げると、変な質問をされました。「車椅子を乗り換えることができますか?」今までされたことがない質問だったので面食らってしまい、「いつもこのまま乗っていますよ」と説明すると、「一部通路が狭くなっているため、電動車椅子で通れない可能性がある」との回答。いや、以前から利用したことがあるって言ってるやん!と思いなが「どうすればいい?」と尋ねると、「少々お待ちください」と言って上司に相談しに行ってしまいました。結構待たされました。「おいおい、これからずっとこんなに時間がかかるのかい?」と不安に思っていると、クルーが帰ってきて「そのままでご利用OKです」とにこやかに言ってくれました。所要時間20分。そしてここからゲストサポートパスの発行手続きに入ります。さらに時間がかかるということです。ちょっと心が折れました。「ごめん、また後でくるわ」と告げて、ジョーズのアトラクションを後にしました。

 次はウォーターワールド。ここは消防法の関係で車椅子が2台並んでショーを観ることができなかったらしい。今年から車椅子が2台並んで観られるようになったとのことだったので行ってみました。「並んで観られなかったっけ…?」と考えながら進んでいて気がつきました。 「ホンマや、今まで1人でしか観たことがなかった!」どうりで気づかないワケです。そして観に行こうとしてまたもや立ち止まりました。 「いや、また1人で観に行こうとしてるやん」あまりの切なさに引き返して助けを求めに行き、一緒に来ていた女性の車椅子ユーザーにお願いしてショーを観てもらうことにしました。
 開演時間に間に合うように会場に向かいましたが、またもや行く手をクルーに阻まれました。ゲストサポートパスの発行です。「すぐに済ますので」クルーのお兄さんはそう言いましたが、結構な時間がかかりました。パスに書き込んでいる間にも、子供たちが寄ってきて「トリックオアトリート」と合い言葉を唱え、そのたびにポシェットからキャンディーを取り出して渡すものだから書き終わりません。「ハロウィンだから仕方がないか」と思っていましたが、さすがに開演時間を過ぎてしまうと黙ってはいられません。パスを書き終えてショー会場入り口に誘導しようとするお兄さんを呼び止めて言い放ってやりました。 
 「トリックオアトリート!」
 「は?」しばし固まるお兄さん。ようやく理解してポシェットに手を突っ込み、子供たちには1個入りのキャンディーをあげていたのに、私には2個入りのキャンディーの包み紙を渡して「大当たりでございます!」と切り返してきた。流石である。イライラがどこかに消えてしまいました。後でUSJに詳しい人に聞いたことですか、トリックオアトリートのイベントは子供限定で大人は対象外らしいです。でも確かにあの時は、お兄さんには私が子供に見えたのでしょう。そういうことにしておいてください。
(ちなみにウォーターワールドは車椅子2台が並んで問題なく観ることができました)

 いよいよ本題のジュラシック・パーク・ザ・ライドについて書きます。実はライド系は初体験で、これを体験することを自身も一番の目玉として掲げていました。非常に貴重な体験であったことは言うまでもありませんが、これをどのように人に伝えようか考えるだけでもテンションが上がりっぱなしでした。
 まず、アトラクションの入り口で相当待たされました。明らかに四肢麻痺の身体状況を見てクルーは戸惑っていました。このアトラクションの利用基準は「自力歩行または付き添い者のサポートにより座席に移動可能な方で、利用基準を満たしている方はご利用できます。」であり、私はギリギリのラインであったと思います。クルーの対応で残念だったのは、いろいろと質問されましたがその全てが介助者へ向けられたものだったということ。私本人が答えても、質問は介助者へ向けられていました。質問もマニュアルに書いてある通りのもので、「歩けますか?」「パーを掴むことができますか?」「踏ん張ることができますか?」という内容。「付き添いの者のサポートがあれば大丈夫です。付き添いの者のサポートにより座席に移動可能です。」と答えてなんとか了承を得ました。が、試練はまだまだ続きます。
 このライドには特別なボートが用意されているらしく、それに案内するとのことでした。ゲストサポートパスにより通路を優先的に通してもらい、船着き場の柵のところまではスムーズに行きました。そこでクルーから受けた説明に正直戸惑いました。「ここからは電動から手動に切り替えて押していきます。必ず手動に切り替えてください。」とのこと。電動車椅子と私を含めて250kg以上あるので、手で押すのは困難であること。絶対に安全に運転するのでボートの横まで電動で行くことを認めてほしいと訴えました。しかしクルーは「ルールですから」の一点張りで、こちらの説明に耳を貸してくれません。「私たちが押しますから」と言われたら、こちらも争うつもりはありませんので「わかりました。ではお任せします。」と言って介助者に手動操作に切り替えてもらいました。「ご協力ありがとうございます」と言ってクルーは電動車椅子を押そうとしましたが、当然ビクともしません。あまりの動かなさに動揺したのか、クルーから驚くような一言が発せられました。「自分たちで押して行ってください」ちょっと待って、それはねぇだろうよ!と呆れ気味に「ルールはどこにいった?」と尋ねると、非常に気まずい雰囲気になってしまったので、介助者にお願いして押して行ってもらいました。
 ようやく特別なボートが目の前にやって来ました。座席が船着き場のほうにせり出してくるようになっており、車椅子でも容易に移乗ができる仕様になっていました。横目でちらっと見ると車椅子マークが座席についていたので、この移動式座席に乗るのだということが理解できました。ところがいざ移乗する時になってクルーから出た指示が耳を疑うものでした。「5列目に乗り込んでください」えーーーっ!そこは一般の人が乗り込む席だろう?と、クルーに再確認しましたが「5列目に」ということでした。じゃあこの移動式座席は一体何のためについているのか?悩みましたが、ゆっくり悩んでる時間ももらえず準備を迫られました。動揺してはいけませんね。気をつけていたけれど、履いていた靴がポロリと脱げてボートの外の川に落水。慌ててクルーが拾い上げるも、完全にビショ濡れ状態でした。「もうなんでもいいよ。怪我がなければそれでいいよ。生きているだけでいいよ。」おそらくもう少し時間があれば悟りの境地に立てたかもしれません。

 その後の記憶が曖昧です。落ちるとは聞いていましたが、あんな角度で落ちるとは思っていませんでした。体感的には90度の角度で落ちました。両脇を介助者ががっちりと腕組みして支えてくれていたので、go to heavenは免れました。落ちていく瞬間だけいろいろな想いが走馬灯のように頭の中を駆け巡りました。会社のスタッフに「もうポテトチップスは食べない」と宣言していましたが、実は隠れて食べていました。ごめんなさい。「塩分が強いからあまり食べない方がいい」と訪問看護サービスの看護師から言われていたケンタッキーフライドチキン。割と頻繁に食べていました。ごめんなさい。
 人は命の灯火が消えかかると懺悔する、今回のUSJで学んだことです。そしてもう一つ学びました。「そんなに濡れないよ」信じてはいけません。全身ビショ濡れになりました。人は悪い結果が待ってる時はぼんやりとしたことを教えてくれます。

 ジュラシック・パーク・ザ・ライドの威力は凄まじいものでした。その後のアトラクションがつまらないものであったわけではないのですが、刺激を感じることができませんでした。ハロウィーン・ホラー・ナイトでゾンビに追われても「トリックオアトリート!」と意味不明な言葉を発してしまうし、「カルト・オブ・チャッキー~チャッキーの狂気病棟~」アトラクションでも、飛び出してきたチャッキーに気づかず素通りしてしまうし、「貞子~呪われたアトラクション~」アトラクションでは、綾小路麗華のパンツが見えそうになってドキドキするし、完全に何かがおかしくなっていました。

 ということで、電動車椅子ユーザーがUSJを楽しめるか?という検証に対して答えるならば「楽しめます!」ということです。クリアしなければいけない課題もたくさんあります。多くのアトラクションで求められる「電動車椅子を手動に切り替えなければならない」という利用基準は、改善したほうがよいと考えます。基準を作らなければいけないことも理解を示せますが、制約ばかりを設けると、USJが掲げる「世界最高をお届けしたい。」というスローガンから離れていってしまいます。
 誰もが楽しむことができる場所として、これからも改善努力されることを望んでいます。来年はパラリンピック・オリンピックイヤーです。世界から訪れる人たちをもてなすために、日本の良さを知ってもらうために私も協力したいと思います。


落ちる前

落ちる途中


カテゴリー: 機関誌「縦横夢人」記事 パーマリンク