特集 ロードマップ:病院編 準備を早めるために 「縦横夢人」2020年冬号(No.27)

「縦横夢人」2020年冬号(No.27)
特集 ロードマップ:病院編

「準備を早めるために」

PDF 準備を早めるために

米田 進一

1.はじめに
 受傷から14年。当時の記憶力が低下してきている中でロードマップを書くことになりました。情報提供する側としては有難いと思います。私の過去を振り返り、あの時にこうすれば良かった、これから生きていくためにはどうすれば良いのか、などを記していきたいと思います。

2.受傷から入院
 交通事故により頸髄損傷(以下、頸損)になりました。検査の結果C2・C4・C5を損傷し、人工呼吸器を装着し、首から下は麻痺という重傷を負い入院生活が始まりました。「頸損」という言葉すら知らないので、自分の身体が元に戻るのか、この先どうすれば良いか、何を生きがいにして生きていけばいいのか、当然そんな事を考える余地もない位、深刻な状態だったと思い出します。
 今になって後悔しているのは「リハビリ」をあまりしていなかった事です。リハビリが始まったのは入院してから半年が過ぎた頃でした。それまで動かさなかった半年間で、腕や足の可動域も狭まっていました。在宅生活になると外出する度に着替えをします。自分で動かせないので身体の関節も硬くなり、服を着る事にも可動域も狭いため、衣類の着脱も時間が掛かります。自分の身体を知る意味でも、早いうちからリハビリしておく事を私は勧めます。
 ギャッジアップ(座位保持)も殆ど出来ず寝たままの状態だったので、長時間起きる事に慣れていませんでした。未だに起立性低血圧が起きる事もあります。在宅生活をする上で座位保持は出来るだけ慣れておく方が良いでしょう。在宅生活に戻ると車椅子に乗る事が増えてきますので、必然と座ったままの状態になります。外出する時間も増やす為に、座位保持はムリの無い様、時間があれば続けて下さい。腹圧が掛かるので声の大きさは若干大きくなった気がします。今では相手との会話の声も聞き取りやすくなったと言われます。


訪問リハビリ風景 座位保持の練習

3.退院までの準備として
 入院中から在宅生活に戻るまでに準備しておく事も重要です。まず足代わりとなる車椅子です。介助型にするか電動車椅子にするかがポイントとなります。私はリハビリが始まってから車椅子に座り出しました。介助型の車椅子で呼吸器を搭載する台が設置されていました。
 ご自身の身体に合った機構付きの車椅子を選択する事で、慎重に、尚且つ時間を掛けてカスタマイズする事をお勧めします。特に座面は密着する時間も長い為、空気で調整するロホクッションやジェルタイプのクッション等で調整が必須となります。褥瘡予防の為には欠かせないアイテムなのです。

 次に電動車椅子ですが、介助型と同じく、ティルトとリクライニング、電動フットエレベーティング機構が装備されています。これは在宅生活に関わる問題改善としてオプションで追加しました。フットエレベーティングを付けた理由として、他の頸損の方が足のむくみが多くとても辛いという事を聴いていたので、自身で足の状態を見ながら血流を促すという意味で装備しました。
 国産より海外製は費用も倍近く違います。業者と何度も確認し合い費用も含め、時間を掛けてでも納得出来るまで熟考して決断する事が制作する上で重要です。頸損の方のいろんな車椅子も参考にしてもらうのも良いかと思います。
 住宅改修になりますが、私は受傷前、マンションで一人暮らしをしていました。退院後は自宅に戻るかマンションで生活するかとの話し合いで、両親とマンションで生活する選択をしました。自宅は震災を経験していた事から、改修工事に時間が掛かりすぎてしまう理由から断念しました。当然ベッドは必要となるので、家族と同居するなら目の届く場所であるリビングに設置する事になりました。SWと在宅に戻ってやるべき事を両親に託し、全ての準備が終えるのに退院間際となっていました。それだけ準備は大変なのです。早い段階から動く事で時間の余裕も出ます。
 地元の担当医を探し、訪問看護、リハビリ、訪問入浴、ヘルパーの確保、福祉機器、用具等のレンタルまたは購入するか。助成で補える物もあります。私も全てが最初から上手くいくはずも無く、色々考えた結果、お風呂場は狭いので訪問入浴を利用する事にしました。理由は時間を短縮化出来る、家族の負担を減らせるという事でした。
 在宅生活になってから外部との連絡手段をどうするか考えていませんでした。電話が使えたらそれで良いかと思っていた矢先、OTから「パソコンでメールしては」との案で、車椅子上での訓練が始まりました。ただ私はパソコンに触れる事の無い道を歩んで来たので、相当の時間、OTと奮起したのを思い出します。今は音声入力やスマホがあるので便利ですよね。
 今住んでいる居住スペースをどうするかという事が問題として出てきます。ベッド設置場所、段差解消、お風呂、リフター設置、床補強、電圧を増やす等の項目が挙がると思います。
 車椅子が入る事で居住スペースも取らなくてはなりません。旋回が出来るほどのスペースの確保が取れれば良いですが、各々の状態と体格に合わせた車椅子を作る事で、車椅子の重量によっては床の補強をしなければいけません。自分の持ち家で一戸建てやマンションであればなんとかなりそうですが、賃貸マンションやアパートでは改修工事が出来ず、やむなく引っ越しせざるを得ない事にもなります。在宅生活に戻るまでの期間を想定し、改修工事を出来るだけ早急に進めていく事を知っておいて下さい。
 福祉機器のイベントも年に数回開催されています。レンタルする物は交換やメンテナンスが出来ます。不具合があれば業者に問い合わせて下さい。市町村によってはサービスを受けられない事もあります。行政との交渉には粘り強く行い、どのようにサービスを使って生活していくのか、自身の生活スタイルを築き上げる為に心がけしましょう。
 地域で生活するにあたり、サービスは出来るだけ受けてもらう方が良いです。家族だけでは無く、ヘルパーを導入することで生活の質が変わってきます。事業所に問い合わせて受け入れが可能か判断してもらわなければなりません。家族とは違う人たちが自分の介護に携わらなければならないので、コミュニケーションも大事になります。
 人との付き合い方、やってもらう事を伝えなければならず、とても時間がかかり、労力もいります。昨今、人手不足が深刻な問題となってきています。ヘルパー確保もすぐに出来ない事もあるので、相談員と協力し合い、ヘルパー確保へ繋げてもらえればと思います。

4.最後に
 入院中は情報が少ない中、将来は絶望的だと思っていました。運良く主治医の紹介で同じ呼吸器を付けた頸損の方と出会い、気持ち的にも救われました。私もその方の情報から少しずつ前向きになりました。SNSが普及している今の時代、情報が有力的な解決法となる事もあります。そして私達の様な同じ頸損の方も、当会を尋ねてみて下さい。少しでも解決出来る事があるかもしれません。私達も情報提供出来る様に皆さんの力になれればと思います。


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