特集 パソコン操作の工夫 快適な生活を探る 「縦横夢人」2020年春号(No.28)

「縦横夢人」2020年春号(No.28)

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PDF 特集 パソコン操作の工夫 快適な生活を探る
 パソコンは今や生活には欠かせない便利な道具です。文章の作成、インターネットの利用、プログラミング、イラストやマンガを描く、動画や画像や音楽の編集、ショッピング、SNSの利用、 テレビ電話、ゲームなど、あらゆるものに活用しています。パソコンの性能は、私が受傷した28年前のものを化石のような存在にしてしまうくらい進化・高性能化し、十数年前からはモバイル化が格段に進み、スマートフォンが現れてからはパソコンに取って代わるほどの普及率となっています。
 頸損者にとってもパソコンやスマートフォンは必需品です。上肢に麻痺を有する頸損者は、その多くが工夫を凝らしてパソコンを操作しています。頸損者のパソコン操作は、周辺機器の環境を整えれば操作できるというものではなく、車椅子に座って操作するのか、ベッド上で寝たままで操作するのか、その住環境の整備も必要になります。今回の特集は、数名の頸損者のパソコン操作の工夫を紹介しています。それぞれが自分の生活環境に合わせて工夫している様子を見ることができます。みなさんのパソコン操作の参考になれば幸いです。

(宮野 秀樹)


快適な生活を探る

島本 卓

 私が交通事故で、頸髄C4を損傷してから13年が経ちました。退院後すぐに両親と一緒に実家で生活を始め、9年目に思い切って単身で引っ越し、一人暮らしを始めました。生活環境が変わったことで、物や機器の設置にとても苦労しました。一人暮らしをする際に「自分らしく」「快適」「エンジョイ」の3つを取り入れようと思いました。そして3年をかけて、ようやくゴールが見えてきたと感じています。そこで私が、日常生活をエンジョイしながら、安心して生活をするために取り入れた4つの工夫を紹介します。その前に、「Wi-Fi (無線LAN)」について簡単に説明します。
 私たちの生活の中で、「Wi-Fi」というキーワードをよく耳にするかと思います。Wi-Fiには2.4GHz帯と5GHz帯の2種類の電波があります。2.4GHz帯は周波数が低く、電波が遠方まで届きやすいのがメリットです。また、壁や床などの障害物にも強く、隣の部屋や2階の部屋に電波を届けることができます。ただ2.4GHz帯は、Wi-Fiだけでなく、家電やIHクッキングヒーター、Bluetoothなどの機器も利用する周波数帯です。お互いの機器から出ている電波が干渉し合うことで、Wi-Fiの電波が弱まります。5GHz帯のメリットは、Wi-Fi専用の電波です。そのため、ほかの家電が出す電波と干渉することがなく、安定的に通信を行うことができます。ただ5GHzは壁などの障害物があると弱まりやすい点はデメリットとなります。

 1つ目の工夫は「Wi-Fiを活用する」ことです。私の日常生活の中を見ると、多すぎるほどの機器、家電があります。リモコンも同じ数だけあるということになります。自分で各リモコンを使いこなすことができればいいのですが、実家で生活をしていた時には、家族やヘルパーさんに操作してもらっていました。しかし、やっぱり自分のタイミングで「テレビ」、「照明」、「エアコン」などのオンオフがしたいという思いがありました。そこで福祉機器の環境制御装置(ECS)を取り入れることにしました。機器本体も大きくスペースも必要で、セッティング時にも微調整が必要でしたが、私の生活には外せない機器でした。なぜならテレビ、エアコン、照明、電動カーテン、電動ベッドのギャッジアップ操作ができたからです(図1)。


図1 環境制御装置を使用している様子

 図1のひし形のモニターなど、機器ごとにスペースが必要で、有線接続をしているので、家族やヘルパーさんが引っかかる問題がでてきました。それと機器を約9年も使用していて、劣化も進んでいました。同じ機器を再度購入することも考えましたが、一人暮らしを始めるタイミングに新しい機器を探そうと決めました。機器を探す条件に、①スマートフォンで操作可能、②低価格、③登録のしやすさの3つで検索した結果、条件にあう製品の中から「eRemote RJ-3 イーリモート」を選びました(図2)。


図2 おにぎりサイズ「eRemote RJ-3 イーリモート」

 この機器は福祉機器ではなく、一般機器として販売されており、価格も5000円台とリーズナブルで購入がしやすい。使用時までのセットアップもとても簡単で、スマートフォンに専用アプリをダウンロード(無料)します。赤外線リモコンで操作できる機器のみとなりますが、機器登録もすぐにできます(図3)。私が現在登録している機器でいうと、エアコン、テレビ、照明、サーキュレーター、スマートコンセントを使っています。またコンビニのおにぎりぐらいのサイズなので、場所を取る心配がなくなりました。


図3 スマートフォンで機器ON・OFF

 「eRemote RJ-3 イーリモート」を取り入れたことで、環境制御装置に近い機器をスマートフォンで操作することができました。ただ電動ベッドの操作ができませんでした。
 また、この機器のWi-Fi機能を使うことにより、外出先から帰宅に合わせて自宅にあるエアコンを遠隔操作でつけることができます。もちろん照明をつけることもできます。万が一、照明を消し忘れた場合にも対応できるので助かっています。

 2つ目の工夫は「ベッド上でパソコン操作をする」ことです。私は1日の大半を、電動車いす上で過ごす生活をしていました(図4)。しかし昨年の10月に、自らの管理を怠ったことで、褥瘡をつくってしまいました。すぐに自宅ベッド療養に切り替えての生活が始まりました。パソコン操作は、電動車いす上でのみする前提で、必要な機器の高さや位置調整をしていました。療養前からベッド上で操作できるようにと、テーブルや機器を探し始めていましたが、準備が中途半端のままストップしていました。褥瘡による急な生活の変化に、「参ったぁ~」といった思いに駆られていました。しかし、このことがきっかけで、ベッド上でストレス無くパソコン操作するための工夫について、改めて考えるようになりました。
 私が電動車いすに乗ったままパソコン操作をするために、マウスとキーボードを固定したり角度調整したりできるユニバーサルアームを使っていました。この固定のやり方は、病院に入院している時に担当してくれていた作業療法士の先生が考えてくれました。また操作には、マウスの代わりにトラックボールを使い、キーボードも使っていました(図4)。トラックボールは顎でボールを動かすことでカーソルを操作し、左右のClickは頬で押します。キーボードは、口に棒をくわえて入力します。スマートフォンを操作するのも同じやり方です。 


図4 電動車いすに乗ったまま、パソコン操作

 まず、一番の問題となったのがベッドのギャッジアップをせずに操作できる環境を考えることでした。ベッドをギャッジアップすると体が下方向に下がってしまい、皮膚の引っ張り、ズレが加わることで褥瘡を悪化させてしまうことになります。なるべく褥瘡に負担の少ない姿勢で操作することが重要でした。ベッド上でパソコンを操作すると考えた場合、①画面の大きさと固定の仕方、②トラックボールが逆さまでは、操作に適さない、③キーボードの大きさと固定の仕方の3つに問題がありました。ここで一番重要になるのが、私が使いやすいということです。あと、ヘルパーさんがセッティング時にわかりやすいかどうかも考えながら進めていきました。まず画面を考えた時に、角度調整ができるテーブルをネット通販で購入し、自宅にあるノートパソコンで試してみました(図5)。角度調整についてはクリアすることができましたが、画面はとても小さく見えづらく、さらに口に棒をくわえてキーボードを打つと、目、首への負担がとても大きいです。いろいろ工夫を考え、試してみたのですが、見えづらさや負担の軽減にはなりませんでした。


図5 角度調整ができるテーブル

 平らで、障害物に影響されないものやスペースはないだろうか。ふと浮かんできたのがプラネタリウムでした。そして映像を写し出す機器を考えた結果、プロジェクターが思いつきました。手持ちの小型プロジェクター(スマートフォンサイズ)があったので、どこに写し出せばいいか悩みました。天井を使えば、スペースも固定についても悩む必要はありません(図6)。


図6 プラネタリウムのような感じ

 ただ小型プロジェクターの解像度が低いことで、写し出した文字がぼやけてしまい見えませんでした。小型であればスペースはとらず、近くを写すのには適しています。しかし、レンズからの距離が離れると使えないことがわかりました。照射にあたって、解像度が重要になるので、いくつも製品を探しました。探していておどろいたのが、一万円で性能がいい製品がたくさんあったことです。その中から、解像度◎の製品に決めました。プロジェクターは購入できましたが、次は固定する台や金具を考えなくてはいけません。壁面に照射するのであれば、テーブルに置くだけで使えちゃいます。ただ私の場合、天井に照射したかったのでかなり悩みました。一番悩んだのがプロジェクター後方に配線があることで、独立して立てられないという課題でした。そこで、コンクリートブロックの穴を活用するか、テーブルの天板にプロジェクターを嵌め込めるようにするかなど、いくつも案を出しました。穴だけにこだわればワイヤーネットを活用できるのですが、セッティングして運ぶとなると本体が倒れることが考えられました。私のいる部屋にちょうどいいものがあることを思いだしました。本来の使い方は、灯油タンク2本を乗せることのできる台車です(図7)。全ての条件をクリアすることができました。


図7 台車がこんな使い方に

 次に入力とカーソルの操作についてです。入力といえばキーボードになりますが、私は棒をくわえて操作をしています。ベッド上ということもあるため、なるべく小型で、ボタンの強度もそこそこのものを選びました。操作にあたって、無線で使える製品であれば顔の前もスッキリです(図8)。またマウス操作は、カーソルだけでなく、ドラッグ時にも使うため、とても重要になってきます。マウスもいろいろ検索した結果、何種類か見つかりましたが、これだという製品には巡り合いませんでした。またアプリを探してインストールしてみましたが、スマートフォンとの相性が悪く、操作に反映されるまでにタイムラグがあり使うのをやめました。インターネットで他にもあるか調べ、同じ頸損の先輩にもアドバイスをもらえたことで「テンキーパッド」をマウスとして使うことにしました。テンキーパッドと聞いた時、数字入力のイメージがとても強かったです。インターネットで検索してみると、設定も含めた情報が見つかりました。こんな使い方があるなんて、考えてもみませんでした(図9)。


図8 スマートフォンと同じぐらいのサイズ

図9 顔の前に、キーボードとテンキーパッド

 私の場合は、口に棒をくわえて操作します。このようにアームで固定することで、安定して入力操作ができます。また痙性が起こることで足が跳ね上がり、アームを固定しているテーブルが、顔に倒れてきそうになったことが何度かありました。そのことを防ぐためベッド柵とテーブルの脚を、車椅子用の体幹ベルトで固定しました。そうすることで、痙性が起きてもテーブルが倒れてくる心配を軽減させることができました。
※受傷後、時間が経過して慢性期に入ると、今度は動かせないはずの筋肉が本人の意思とは関係なく突然強張ったり、痙攣を起こすことがあり、これを痙性と呼びます。
 いくつかの工夫をすることで、ベッド上でギャッジアップをせずに、パソコン操作ができる環境が整いました。環境が整ったことで、ベッド療養が苦痛と感じることはありませんでした。最初は、褥瘡の状態から療養期間が長期化すると思っていました。そうなると、ストレスが溜まっていく不安がありましたが、気分転換をしながらの療養ができたおかげで、回復の二文字に到達できそうです(図10)。


図10 パソコンを快適に使いこなす

 3つ目に「防犯対策」です。誰もが生活をしていく中で、防犯対策はとても重要になってきます。私だけの意識ではなく、周りの人にも広めていきたいです。現在、私はバリアフリー物件ではなく、一般の賃貸マンションで生活をしています。たまたまですが、既存するインターホンはベルが鳴れば、ボタンを押さなくても音声応答ができるものでした。ところがいざ生活が始まると、家具などいろんなもので部屋がいっぱいになります。音声応答が使えていたのですが、部屋に声が響かなくなったことで、インターホンが鳴っても対応できないことになりました。そうなると私の場合、ヘルパーさんが訪問中でなければ、インターホンが鳴っても対応できません。玄関のことで言えば、カギをあけたままといった問題もあります。そうなると誰が来たのかもわからないため、不安に感じていました。インターホンごと買い換える、玄関の扉を買い換えることも考えましたが、購入費用がかさむため断念しました。そこで「費用が安い」、「取り付けのみで使用できる」、「スマートフォンで確認ができ、通話できる」の3つを探す条件にいれました。インターネットで検索すると、たくさんの商品がヒットしました。しかし条件をクリアしたはずなのに、購入しようとはなりませんでした。なぜかと言うと、私が住んでいる賃貸マンションの部屋の扉は、廊下よりも奥に入っています。インターホンも側面に取り付けられていて、インターホンを鳴らしても、訪問者の顔が確認できません。そこで、ベビーカメラやペットカメラ(以下、ネットワークカメラ)を使えば問題を解決することができるのではないかと思いました。エレベーターから降りてこられた場所あたりを確認できて、訪問者が確認でき、通話もできればインターホンの代わりになるはずです。既存のインターホンを鳴らしてもらい、ネットワークカメラで応答通話することにしました(図11)。
 またおススメしたいのは、外出先でWi-Fiやスマートフォンのデータ通信を利用することで、自宅玄関に取り付けているネットワークカメラを遠隔操作することができます。そうすれば、外出先からでも自宅に来られた訪問者を確認しながら対応ができるので、とても安心です。SDカードを活用すれば、帰宅後に確認することも可能です。


図11 ネットワークカメラを設置

 例えば、私が一人で外出をしていて、信号に引っ掛かり訪問時間ギリギリでの帰宅になってしまうことがありました。私がマンションの下に着いた時には、ヘルパーさんは私が部屋にいると思い、エレベーターで上がってしまいました。こんな時も、ネットワークカメラを活用することで、マンションのエントランスにいることを知らせることができます。また外出時に、忘れ物をした際に対応できるように、居室内にも一つネットワークカメラを取り入れています。例えば、資料を忘れた場合、ヘルパーさんに部屋に取りに戻ってもらいます。もし間違っていたら、また戻ってもらわないといけません。そこで、必要だった資料であっているか、ネットワークカメラにかざしてもらい確認をしています。わかりにくい場合は、自宅の固定電話に掛けて伝えます。それ以外では、部屋の電気を消し忘れ、テレビの消し忘れを映像で確認する時にも使っています(図12)。


図12 部屋内にネットワークカメラ設置

 4つ目は「節約と災害にむけての対策」です。災害時は命の危険だけではありません。私たちにとって一番厄介で困るものは、まさしく「停電」だと言えると思います。現在、人が生活する上で電気を切り離しては考えられない。数時間程度の停電でも、夏場では冷蔵庫の食材が全てダメになってしまうこともあり、一番の危険で言えば、エアコンが使えずに熱中症になることです。災害が起きてからの準備と対策は、混乱することになりかねない。
 2011年に発生した東日本大震災後に、家庭用蓄電池が注目されるようになった。2012年から蓄電池の導入に関して補助金が交付され始め、災害への不安もあることで、災害時の非常用電源として準備をする家庭が増加しました。地震以外の災害時へ備えとし、家庭用蓄電池を購入する家庭が増えるのは不思議ではありません。
 私は3年前から賃貸マンション13階で、生活をしています。生活をスタートさせてからすぐに、持ち運びできる大きさの蓄電池を購入しました。現在自宅で4つの蓄電池を導入しています。私の生活の9割は電気で動いている機器ばかりです。身体状況から、電動ベッドやエアーマット、シーパップ、移乗用リフト、電動車いすが、私の生活の中で重要な医療・福祉機器と言える。それらの医療・福祉機器も電気がなければ、使用できなくなり効果も得られません。移乗用リフト購入時に、コンセント電源も考えていましたが、災害時のことを優先しようと決め、バッテリー式の製品を購入しました。
 普段から導入していれば、災害時に対応できるはずです。そこで日常生活にも蓄電池を活用することにしました(図13)。
蓄電池の使用状況
①スマートフォンの充電
②バッテリー式掃除機の充電
③空気清浄機使用時の電源
④eRemote RJ-3 イーリモート起動中の電源
⑤モバイルバッテリーの充電
⑥ネットワークカメラ起動中の電源
⑦サーキュレーター、扇風機使用時の電源
⑧ノートパソコンの充電


図13 蓄電池でノートパソコンを充電

 私がメインで使っているのは、上記の8つになります。そう考えると、機器に囲まれて生活していることがわかります。また、蓄電池を取り入れてからは、毎月の電気代が3000円から5000円も安くなりました。使用したい部屋の壁コンセントがいっぱいだったとしても、蓄電池を持っていけば扇風機など、使用することができます。もちろん蓄電池なので、電力がなくなれば、家庭用コンセントや太陽光パネルで充電しなければなりません(図14)。


図14 太陽光パネルで蓄電池を充電中

 私が使用しながら思ったことがあります。確かに蓄電池の価格から考えれば、決して安いとは言えません。ただ、蓄電池というものが世の中で耳にするようになったということは、災害以外でも想定をしているか、開発時のきっかけがあったのかもしれないと思っています。他の機器も同じで、使用する者がいる・いたから開発されているはずです。
 私が注目している家電は「シーリングライト 音声操作」です。AI機能を使って家電操作をされている方は、多いのではないでしょうか。AI機能を使って、照明のオンオフをされているはずです。ただ、音声認識をさせるために、設定はもちろんのこと、Wi-Fiがあることが絶対条件になります。環境がないから、使いたいけど使えないと思っておられると思います。某メーカーが開発したシーリングライトは、Wi-Fi環境が自宅になくても、音声認識を使い照明のオンオフができるんです。スマートスピーカを介さず、直接音声を認識するので、応答も素早く動くように思います。難しい設定も無く、商品が届いて、天井に取り付ければ、すぐに使えます。とても便利な家電だと思います。
 最後に、現在ではインターネットの普及により、欲しい情報はいつでも手に入る時代になりました。ただ得た情報をいかに活用できるかで大きく違ってくると思います。高価であれば機能性がいいのが当然ではないと、私は思っています。機能が良ければ活用できることは増える一方で、できなくなることも出てくるからです。そうなった場合には、それプラスで機器などを購入しなければいけなくなるのです。安くても、必要な機能に対応する機器はあると思います。それらを上手く取り入れられることができれば、もっともっと快適な生活へとつながると考えています。


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