特集 コミュニティからみた自分の生活 「縦横夢人」2020年夏号(No.29)

「縦横夢人」2020年夏号(No.29)2020年8月11日発行

特集 コミュニティからみた自分の生活

コミュニティからみた自分の生活

橘 祐貴

はじめに

 今回の特集を書くのにあたり、「そもそもコミュニティとは何なのだろうか?」とふと疑問に思いました。調べてみると「コミュニティ」とは「共同体」という意味らしく、「地域社会」から「同じ興味や目的を持った集団」まで幅広い範囲を含んでいるそうです。何だか分かったようで分からないような感じです。私が関わっている「コミュニティ」で思いつくのは、自分の住んでいる地域や頸髄損傷者連絡会、リハビリテーション工学協会、ダイビングなどでしょうか。おそらく他にももっと沢山あると思います。それらのコミュニティと私はどのように関わっているのか考えてみたいと思います。

地域とのかかわり

 まずは自分が暮らしている地域とのかかわりについて考えてみます。現在の自宅に引越してから約1年半、一人暮らしを始めてからも1年がたちました。一人暮らしを始めたとはいっても実家のすぐ近くに住んでいるので、この地域でかれこれ20年近く生活しています。ただ地域での居住期間自体は長いものの、住み始めたのが中学の終わりに近かったこともあって、近所の人との付き合いはあまりないまま、高校3年生の秋に受傷しました。


この地域に長くは住んでいるけれど…

 現在住んでいる団地でも、廊下で誰かと会った時に挨拶する程度で、住人の入れ替わりも激しいため、近所にどんな人が住んでいるのかもよくわからないです。例えば地域の防災訓練等に参加したりしていれば、「同じ地域に電動車いすの人が住んでいるんだな」と周りに認識してもらえると思いますが、その時間帯に介助者を確保することが難しく、まだ参加できていないです。私が地域で生活したり社会参加したりするためには介助者が必要不可欠ですが、1日10時間に満たない現在の重度訪問介護の支給時間では、日々の生活を送るだけでいっぱいいっぱいです。健康なうちはまだ何とかなっていますが、もし少しでも体調を崩すようなことがあると、生活が成り立たなくなるかもしれないという不安があります。今は実家に近いので、ヘルパーの利用時間では足りない部分や入ってもらえる事業所が見つかっていない時間帯は、両親のサポートを受けることでなんとか生活ができていますが、いつまでも両親に頼ることはできません。これから先も安心して地域で暮らすために、どのように支給時間と介助者を確保していくのかが課題です。

頸髄損傷連絡会とのかかわり

 次は当事者間のコミュニティについてです。私が頸髄損傷者連絡会に入ったのは、受傷してから10年以上がたってからでした。頸髄損傷者連絡会というものがあるということは知っていて興味もありましたが、それまで同じ頸髄損傷の人と接する機会はあまりなく、「きっと自分よりも年配の人ばかりなのだろうな」という勝手なイメージもあったので、ホームページには何度かアクセスしたものの、それ以上のアクションは起こせないまま何年もたっていました。ところが受傷してから10年近くになり、社会との接点がほとんどないままの自分に「このままでは社会から取り残されてしまう」と、だんだん焦りを覚えるようになってきました。これから先どうしていけばいいのか、自分一人で考えても答えは出ず、「同じ頸髄損傷の人だったら何かヒントを持っているかもしれない」と思い、頸髄損傷者連絡会に入会しました。
 頸髄損傷者連絡会に入会して行事に参加してみると、同じ世代のメンバーが電動車いすを使いこなし、全国のさまざまな会や行事に参加していて驚きました。地域で一人暮らしをしている人も多く、彼らが行っている生活を見たり、経験談を聞いたりすることで、自分が「いつかやりたいな」と思っていた自立生活がどんなものなのか、だんだんとイメージができてきました。
 様々な行事やイベントを通じて知り合いも増えました。学生ボランティアと一緒に頸髄損傷者連絡会の全国総会やリハビリ工学カンファレンスに参加することで、行動範囲もだんだんと広がってきました。家族やヘルパー以外の人と一緒に新幹線や飛行機を使って出かけるようになるとは10年前には想像できませんでした。


リハビリ工学カンファレンスに参加

最近では機関紙の編集を任されるようになり、慣れない編集作業に戸惑いながらも「仕事を任されるようになった」というやりがいを感じています。少し気になるのは「自分よりも若い頸損者がなかなか入ってこない」という事です。誰かと何かしらつながりがあるのならいいのですが、入院期間も短くなっているので、つながりのないまま地域に戻って取り残されている人も多いのではないかと思います。そのような人にどうやってアプローチしていくのかが課題だと思います。

障害当事者として

 知人から「こういうものがあるよ」と紹介があり、数年前より兵庫県の「福祉のまちづくりアドバイザー」に登録しています。これは官公庁や商業施設等多くの人が使用する施設の整備と管理運営等について、利用者の目線から点検・助言を行う制度です。まだ一度しか参加していませんが、車いす利用者の立場で「どうしたら利用しやすくなるか」を助言しました。車いす利用者といっても、少し歩いたり自分で移乗ができたりする人から、私のように全介助の電動車いすユーザーまで様々です。「ここは電動車いすの自分には問題ないけれど、片麻痺の人にはどうだろうか?」といろんなケースを考えながら意見をするのは結構大変でしたが、当事者の意見がより利用しやすい施設づくりに反映されるのならとてもやりがいのある制度だと思いました。

まとめ

 今回の原稿を書く前は「自分がかかわっているコミュニティはあまりないのだろう」と思っていましたが、改めて振り返ってみると意外と多くのコミュニティとかかわって生活していることがわかりました。私たちが生活をしていくためには何かのコミュニティに関わっていく必要があり、その数が多ければ多いほど生活が豊かになるのではないかと思います。
 今年に入ってからの新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は大きく変わってしまいました。多くの行事や集まりが中止になり、外出するのも躊躇するようになるとは、年が明けた頃はまだ想像できていませんでした。一度は落ち着いていた感染者数が再び増加しているので、以前のようにみんなで集まれる日がいつ来るのかも今は分からないです。ただ現在はインターネット環境が整備されているので、Web会議システム等を活用してのコミュニケーションがどんどん増えてくるのかもしれません。これから先、コミュニティのあり方がどう変わっていくのかわかりませんが、社会とのつながりは保っていきたいです。


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