特集 頸損ロードマップ 退院編 ロードマップ退院編 伊藤 「縦横夢人」2020年秋号(No.30)

「縦横夢人」2020年秋号(No.30)2020年11月16日発行

特集
頸損ロードマップ
退院編

-病院を退院した時に準備するべきこと-


ロードマップ 退院編

頸損ロードマップ 退院編 伊藤

伊藤 靖幸

 正直、退院が決まって自分で何かしたかと言われれば、特に何もしたわけでもなく、あまりわからないまま退院しました。能天気な性格で何とかなるだろうという気持ちのまま退院したのを覚えています。今この文章を書いていて、そうだったのだと知った事もありました。それでは、一つ一つ答えていきます。

Q 受傷してからどのくらいの時期で退院しましたか?

A約1年7か月です。転院を2回しています。

Q どのような福祉用具を導入しましたか?また福祉用具や利用できる制度についての情報はどこから得ましたか?

A 導入した福祉用具は、
① 天井走行リフト
② ECS(環境制御装置)
③ 電動ベッド
④ ロンボケアマットレス
⑤ 電動車椅子
⑥ 段差昇降機
⑦ シャワーキャリー
⑧ 便出し用ベッド


便出し用ベッド

 私は、直腸機能障害のため訪問看護に来てもらい、浣腸と適便で排便コントロールをしています。一般的には、自分が寝るベッドで側臥位になって行う事が多いと思います。しかし、3つ目の病院で便出し専用の部屋があり、そこで排便を行ったほうが清潔な上に楽だと知り、住宅改修するときに作ってもらいました。プラットホームにお尻が収まるように穴をあけて、そこにお尻を下ろし訪問看護に浣腸や適便をしてもらっていました。プラットホームとは、リハビリ室でリハビリを受けるときに使用するベッドの事です。出た便は下に設置した水洗トイレに落ち、後はボタン一つで流れるというものです。このような福祉機器を使って生活が始まりました。福祉機器を利用できる制度については、東京海上日動火災保険の方から情報を得ました。

Q 退院後の住居は受傷前と同じでしたか?住宅改修を行った場合は改修した箇所や利用した制度についても教えてください。

A 退院後の住居は、受傷前とは違い実家を住宅改修しました。改修した個所は、
① 2部屋を壊して寝室と便出し用部屋にした事
② 廊下をかさ上げしてリビングと仏間を行けるようにした事
③ 家に入るために庭にスロープを作った事


スロープの住宅改修

 住宅改修で利用した制度については、東京海上日動火災保険の自動車保険です。住宅改修ではないのですが、スロープを降りて道路に出て直ぐにグレーチングがあり、前輪のタイヤが挟まり危険だったために、市に相談をしたら、溝の小さいグレーチングに変えてもらえました。グレーチングとは、道路脇などにある側溝に設置するも
のです。

Q 退院後の医療・看護の体制について教えてください。(訪問看護やリハビリを受けていたか?)

A 退院後は、訪問看護を週2で受けていました。主に便出しをしてもらっていました。失便などがあった時は、電話をして来てもらっていました。訪問リハビリは、週1で受けていました。主に拘縮予防と筋力維持のためです。ただでさえ、年をとっていくとADL(日常生活動作)が出来にくくなります。これは、障害ある・なしに関わらず人間である以上仕方ない事です。ましてや私は、四肢麻痺者です。残存機能を維持して、自分で出来る事は自分で出来るようにしていく事が健康維持にもなると思います。
 リハビリをしないとADLが出来なくなり、QOL(生活の質)が下がると考えます。ADLとQOLは密接な関係があると思っています。例えば、ADLが自立してできているとしても、日々の生活の満足度が低ければQOLが低いといえます。反対に身体機能が低く介護が必要だとしても、意思が尊重されイキイキした毎日を送れていればQOLが高くなると思います。そのために、出来る限りリハビリは行ったほうがいいと思います。自分は今でも続けています。


訪問リハビリ

Q 退院してからの介助体制はどうでしたか?また、介助者を探すのはスムーズに行きましたか?

A 介助体制は、実家で家族介護とホームヘルパー・デイサービスで生活していました。介助者は、家族介護という事でホームヘルパーを利用出来る時間数が短く、探す事もなくすぐに見つかりました。

Q 退院時に不安だったことや困ったこと、知っておきたかったことはありますか?また困った時に相談できる相手はいましたか?

A 私の場合、退院時に不安になるような事は少なかったです。能天気な性格もありますが、母親の知り合いで同じ障害を持たれた方がいたからです。母親が連絡をとってくれて、入院中に会いに来てくれました。退院してからも相談に乗ってくださり、乗り越えてこられたのだと思います。

 最後に退院した病院で、退院前に主治医、OT、PT、医療ソーシャルワーカー、家族でカンファレンスを行い、使用する福祉用具の購入や住宅改修を行いました。しかし、生活していくと使わないものもでてきました。唯一購入をして使わなかったものがシャワーキャリーでした。デイサービスで入浴するようにした為、自宅で身体が洗えるようにと購入したシャワーキャリーは1度も使う事がありませんでした。今も自宅でほこりをかぶっています。


シャワーキャリー

 福祉用具は高額です。必要最低限の物は別ですが、福祉用具の購入は、生活が始まってから考えられてもいいのかなと思いました。


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