「縦横夢人」2020年秋号(No.30)2020年11月16日発行
リレー連載「Road to Paralympic」
電動車椅子使用者の日常生活と外泊時の工夫と機器活用
PDF リレー連載 電動車椅子使用者の日常生活と外泊時の工夫と機器活用
島本 卓
兵庫頸髄損傷者連絡会では「抱え上げない」をスローガンとした活動を行っています。介助を受ける側だけでなく、する側の安心と安全も考え、福祉機器・用具を有効に取り入れることで脱腰痛を目指して活動しています。
最近日本でも「抱え上げない介護=ノーリフト」という言葉が介護現場でも広まってきました。『ノーリフト』とは、オーストラリア看護連盟により看護師の腰痛予防のために提言され、危険を伴う人力での移乗を禁止するもので、福祉用具を使って移乗介護をすることが義務付けられています。「ノーリフティングポリシー」とも呼ばれています。
抱え上げない介護を推奨している私は、移乗用リフトを日常生活に取り入れています。以前は「つるべー」を(図1-1)、現在は「アトラスクロス」という製品を使っています(図1-2)。
つるべーという製品は、ベッドの重さを利用したベッド設置式リフトです。多くの種類の電動ベッドに使用できるように、長さ・幅の調整が可能になっています。移乗時には体の下に引き込む専用ネット(以下、スリングシート)を使い、吊り上げて移乗をしています。アームは360°回転できるので広い範囲で使うことができます。また、手動上昇下降装置付なので、停電時も安心して使えました。
そして、アトラスクロスは、部屋の大きさに合わせ4本の支柱を立て、支柱内であればXY軸両方に移動ができます。移乗する際には、スリングシートを使っています(図1-3)。
介助者不足問題の理由の1つが、人力による抱え上げての移乗による腰痛が原因とも言われています。移乗用リフトを取り入れることで、介助者の腰痛予防と負担の軽減を行い、長く支援に関わってもらえればと思っています。
また私は、旅行などの宿泊先でも自宅に近い環境で介助が受けられないかと考え、簡易式リフトを取り入れることにしました。実際に移乗している様子を紹介します。
外泊時の簡易式リフトは、日常生活でもお世話になっている福祉用具店にお願いし、レンタルで使っています。今までに『トラベルトラック』、『プリズムシステム』の2機種を使ってきました。これらの機種を選んだ理由は、日常生活と同じ環境で介助を受けたかったからです。リフトの組み立てが介助者一人でできるうえ、私自身の負担も少なく移乗ができるため、外泊時には欠かすことのできない機器の1つになっています。
トラベルトラックは、シングルベッドをまたぐように設置します。移乗には自宅と同様に、車椅子上で体を吊り上げるためのスリングシートをセッティングしなければなりません(図2-1、2-2)。
また、部屋の天井の高さに合わせて調整ができるのが安心です。簡易式リフトを取り入れると移乗がスムーズに行えます。持ち運びの際のサイズはゴルフバッグぐらいで、介助者一人で運ぶには大き過ぎます。介助どころではなくなるので、宅配業者に頼んで現地の宿泊先まで送っています。
プリズムシステムは、支柱2本とレールといった、3つのパーツで組み立てることのできる簡易式リフトです。設置場所、移乗方法はトラベルトラックと同じで部屋の天井の高さに合わせて調整ができ、移乗がスムーズに行えます(図3)。
現在、トラベルトラックとプリズムシステムの2機種は製造が終了していて、在庫限りの販売となっています。なので、2機種の代替として床走行式リフトを取り入れています。床走行式リフトは使用する際、ベッドの下にリフトのタイヤフレームが入るかどうか、注意が必要です。
~簡易式リフトに思うこと~
簡易式リフトを取り入れる
① 人力での抱え上げではなく、安心・安全に移乗させることができる。
② 介助者の人数を減らすことができる。
③ 誰でも同じ移乗介助ができる。
簡易式リフトが普及しない理由
① 移乗用リフトを使うためスリングシートの準備等が面倒と感じられる。
② 移乗用リフトの取り入れが少ないことで、価格が下がらない。
最後に、近年増えてきているバリアフリールームですが、スペースが確保されていたり、床がフラットであったりするだけでは、使いやすいというわけではありません。電動車椅子ユーザーには、ベッドが動かせるかどうかも重要です(キャスター付き)。移乗用リフトが設置されたホテルが増えれば、最重度障害者の旅行者も、もっと増えると思います。しかし、まだまだ、大型電動車椅子ユーザーが利用するとは認知されていないようです。それでも、旅行をもっと楽しむために、便利な道具を活用することをお勧めします。