「縦横夢人」2019年冬号(No.23)
連載
恋旅 「SWEET 19 BLUES ~その2~」
竹村 美紀子
前回までのあらすじ
中学一年生の時からずっと好きだった男の子。どう頑張っても全く相手にされず。そうこうしているうちに私は交通事故で入院。その後は学校に戻ることもなく卒業。やがて私は地元に戻り就職。彼は岡山の大学へ進学したと噂に聞く。私の事故以来、会うことも話すこともなかったが、ずっと気になる存在だった。
そんなある夏の日曜日の午後、母が私の部屋に来て言うのです。「なんかA君(ここからはA君とします)が玄関に来られてるんだけど。そっち(私の部屋の入り口)にまわってもらうよ~」と!!!えええ!?!なにそれ!?!どういうこと!?!
あ、そうそう、A君のことは、私がよく話していたので、母や妹にとってA君は“よく知らないけどよく知ってる人”だったのです(笑)
そしたらそこには本当に、真夏の昼間に大きな箱を抱きかかえて汗だくで立っているA君がいたのです!!!どうやら駅から私の家まで、坂だらけの長い道を、その大きな箱を抱えて歩いてきてくれた模様。そりゃあもう私、内心は相当なパニックですよ。でも必死で冷静を装う当時の私(笑)いや全力で喜べよ~と言ってやりたい今の私(笑)
今では、よく喋るな~と自覚している私ですが、当時はとにかく喋るのが苦手。 だけど、とにかく必死に何か喋らなきゃ!となっていたことを覚えています。 ちなみにその大きな箱の中身はたくさんの桃!岡山の大学に行っていたA君。岡山から遠路遥々持ってきてくれたのです。 そして、大学生活や友達のことなど、いろいろ話してくれた気がします。
私にしてみたら、これはもうめちゃくちゃ動揺した“まさに真夏の大事件”でした。
今のようにスマホなども無い時代だったので、またそこからは音信不通になるわけですが、なんと!また次の夏、今度は何やら巨大な、手にも持ちきれないような板状のものを抱えてやって来たのです。 また坂だらけの道のりを汗だくで。
その時彼は大学4年生。私は、彼は卒業したら地元に戻ってくるのかな、と、ちょっと期待していたのです。でも彼は、地元には戻らず、なんならさらに遠くの滅多に帰って来られそうもないところで、滅多に帰って来られないような職種に就くと聞きました。昔からちょっと変わっていて、そこが魅力のA君らしい選択でした。
実はこの話を聞いた時、私は、それまで暫くの間なんとなく考えていたアメリカ留学を決心したのです。
あ、そうそう、その巨大な板状のものは、超大作のジグソーパズルでした。その日から、その超大作ジグソーパズルは私の部屋の壁に数十年掛けられることになりました。
その後はまた恒例の音信不通(笑)。でも私も無事アメリカに留学し、一人暮らしにも慣れ始め、学校生活、勉強、遊び、と、とにかく毎日忙しいけど、それまで味わったことのないほどの充実感と満足感を日々感じながら過ごしていました。
そんなある日、なんだか分厚い封筒のエアーメールが届いたのです。差出人を見ると!そうです。もう分かりますよね? (笑)もちろんA君です。
そこにはたくさんの写真と、その裏にはそれぞれの写真の説明文が面白おかしく書かれていました。彼は彼で毎日を一生懸命に生きているようでした。本当は、時々日本に居る家族の事などを思い出し寂しくなったりすることもありました。でも私もここで頑張っていこうと思いました。
それからは彼がどうしているのかは知りませんが、きっとどこかで誰かと幸せに生きていることでしょう。
さて、私も今年も楽しみながら、やれること精一杯頑張っていきたいと思います。
SWEET 19 BLUES~その2~ おわり