会員報告 時間を気にせず船旅を楽しもう 「縦横夢人」2019年夏号(No.25)

「縦横夢人」2019年夏号(No.25)
会員報告

時間を気にせず船旅を楽しもう

PDF 時間を気にせず船旅を楽しもう

米田 進一

 頸髄損傷になって初めて旅行をしたのが大分県別府市でした。12年前に電車で行った思い出の地で全国総会が開催される事から、今年は何か一つでも経験していない事を新たに挑戦してみようと思っていました。
 幾つか移動手段を検討していくうちに「船でも行けるのではないか?」と思い、移動手段の一つとして候補に挙がるようになりました。ネットで調べていくにつれて気になっていたのは、私の電動車椅子(以下、車椅子)が大きいサイズなので、客室に入れるのかということでした。入れなければ意味がないので、まずは見学からと思い「さんふらわあ」(大分港行き)と「阪九フェリー」(新門司港行き)が六甲アイランドから出ている事もあり、船着き場も隣同士だったので、3月下旬の同日に見学を出来るよう、両船会社に調整してもらいました。

 見学当日、午前中に「さんふらわあ」へ行きました。担当者に前もって伝えていた「人道橋を見せて欲しい」とのお願いに、「船に橋が架かっていない状況でも良ければ」との事で、建物側から近づく事が出来る場所まで案内をしてもらいました。船内を見学する為一度車に戻り、車両入場口より乗船し、見学しました。

 3階のエレベーター前に車を駐車し、エレベーターで『プロムナード』というレストランや売店等がある5階フロアに案内され、「神戸の人道橋から乘船する場合は5階のこちら側からになります」「大分からの乘下船は4階からになります」等、とても丁寧な説明を受けました。


船内のトイレ 広さも充分

 そして事前に伝えていた条件に合う客室がある7階に移動し、エレベーターから一番近い部屋を見せてもらいました。事前にネットで確認し、一番気にしていた客室入り口開口部を通る事が出来るのか?は、フットサポートを外す事で室内に入れました。部屋に入ると思っていたよりも広く、ベッドは固定してあるものの、テーブルとイスを撤去する事で、車椅子をベッドの横に着ける事が可能であると分かりました。室内にはベッドが2台、ソファーベッド、収納式ベッドを含めると、最大4名が利用出来る様になっています。この時点で「船を利用しよう」と心の中で決めていました。ただ、まだ介助者の確保が出来ていなかったので、改めて後日、介助者が確定した時に、電話でご連絡する事をお伝えし下船しました。
 担当者と別れ際に「ベッド移乗のお手伝いをお願いしたいのですが、可能でしょうか?」と尋ねたら、「要望にはお応えしたいと思いますが、船内スタッフ(以下、スタッフ)の仕事状況や時間帯によってはお待ち頂く事をご了承下さい」という親切な対応だったので、“断らない姿勢”が私にはとても好印象で気持ち良かったです。
 次に「阪九フェリー」に向かいました。客室の広さ等は申し分なかったのですが、移乗のお手伝いが出来ないとの事だったので、こちらは断念しました。
 後日、見学時に撮った写真を元にスケジュールを立て、介助者の確保や荷物等の手配や準備に取りかかりました。ある程度スケジュールを確定した時、好印象だった「さんふらわあ」に電話を掛け、往復利用の予約をしました。一点だけ自分が見落としていたのは、通常は本予約から一週間以内に料金を精算しなければいけないということでした。しかし、担当者の計らいで、「当日精算でいいですよ」と仰ってくれ、あとは当日を迎えるばかりとなりました。
いざ船旅へ。5月17日(金)の18時30分頃に六甲ターミナルに到着し、受付を済ませ私は介助者一人と一緒に人道橋から乗船する事にしました。もう一人の介助者は車で車両入場口より乗船してもらう事にしました。私達は係員の誘導で最初に乗船しました。傾斜は若干ありましたが、スムーズに通れました。客室に入り荷物を整理し、エアーマットの準備を終えた時、銅鑼が鳴り19時50分に定刻通り六甲アイランドを出航しました。テレビには航海ルートや現在位置、速度、天候、到着予定など航海情報が映し出されています。


デラックス部屋の様子の写真

 いよいよ11時間半の長時間に及ぶ船旅が始まると思うと、年甲斐もなく興奮気味になりました。私自身も頸損になって初めてのチャレンジになるので、今回は良い機会であったと思います。部屋で夕食を摂りながら休憩していたところ、出航から約1時間過ぎた21時頃、明石海峡大橋の下を通過しました。本当は外に出て見たい所なのですが、段差があるのでデッキに出入りする扉を開放し、風を感じながら何とか見える側まで車椅子を寄せました。 
 やっぱり良いですね!迫力もあり凄く感激しました。明石海峡大橋の下を通過する瞬間を体験出来る事は、船ならではの特権ではないでしょうか。船の速度も時速40㎞と表示されていたので、意外と速い事に驚きました。移動に半日を要しますが、『夜寝て次の日の朝に着く』船旅がこんなには思いませんでした。就寝準備の為、22時にベッドへ移乗のお手伝いをお願いしたら3名も来て下さり、とてもスムーズにいきました。翌日の介助をお願いし、22時40分頃、次の日の朝に備え就寝しました。


ベッドで就寝中

 5月18日(土)5時過ぎに起床。介助者の一人がデッキに出て「雨が降っている」ことを教えてくれました。7時20分に定刻通り大分港へ着岸しました。雨で車椅子のタイヤが滑る事を懸念し、私と一人の介助者は車で下船し、もう一人は写真と動画を撮ってもらう為、人道橋から下船してもらいました。車に乗り込み、私が車で使用する“ゴムラバー”を船内に忘れてしまっていた事に気づかず下船していたのを、後に知る事になりました。


大分港に着岸した「さんふらわあ ぱーる」

 5月19日(日)、別府での行事を終えて1日半振りに大分港に戻ってきました。受付時間を確認する為事務所に向かうと、係の方が“ゴムラバー”を預かってくれていました。しかもナイロン袋に入れてありました!前日に船内に置き忘れてしまっていたラバーを、廃棄物と思われても仕方がない物なのに、名前まで書いて丁寧に保管してくれていました。「ウソ~!ここまで凄いのか?さんふらわあさん!」と介助者と共に感服した瞬間でした。この様な心配りが出来る企業さんに好感度が急上昇した事は言うまでもありません。


帰りの船は「さんふらわあ ごーるど」

 行きと同様に二手に分かれて乗船しました。17時に受付が始まり、2階の待合室で休憩していました。雨による満潮の為か、船体に架かる人道橋の傾斜角度が約15度位有り、車椅子でこの坂の上まで行けるのかとても不安でした。


傾斜が15度程ある大分港の人道橋

 見た感じでは1階から3階へ上がるイメージです。介助型の車椅子では人によっては怖いと思われるかもしれません。約1時間近く待ち、沢山のトラックや車両、客が乗り込んだ頃、係員から「一度介助者に上れるか確認してもらいたい」と言われ、見てきてもらう事にしました。船体が重くなれば傾斜も低くなります。乗船出来る状況になり、介助者の一人に動画を撮ってもらう様お願いしました。傾斜角度も若干下がり人道橋を上がり始めると、先導員と介助者、係員各一名ずつ間に囲まれながら、ゆっくりと登りきりました。いろいろと気を遣わせてしまいました。すみません。


大分港の人道橋を上る様子

 19時15分、定刻通り大分港を出港しました。雨が強まり、部屋から眺める景色は少し見え辛かったです。また帰路に就く約11時間の旅が始まりました。雨と風が強いのか、若干船体が揺れていたので、船酔いとはいかないものの、この大きな揺れも船ならではの思い出でしょうか。22時にスタッフ3名に来て頂き、ベッド移乗もスムーズに行えました。
 5月20日(月)5時起床。現在地は姫路港沖を航海中、あと2、30分程で明石海峡を通過する所まで来ていました。明石海峡付近になって、また写真や動画を撮ってもらう様、介助者に指示し、私はベッド上で窓を見ながらその時を待っていました。そして明石海峡通過の瞬間、かろうじてですが見られて嬉しかったです。


明石海峡大橋を通過する瞬間を体験

 5時50分になり、スタッフ3名(状況によっては人数に変動があります)が来て頂いたので、一人のスタッフにベッドから車椅子へ移乗する動画を撮ってもらう事にしました。


ベッドから車椅子へお手伝い頂きました

 そして6時35分、定刻通り六甲アイランドに着岸し、エレベーターで車に乗り込み下船しました。初チャレンジとして挑んだ船旅は無事に終える事が出来ました。一つ一つの出来事が大きな財産となり、更なる第一歩を踏めたと思います。

 船で二泊する事自体考えていなかったので、今回の体験はこれから船旅を考えている方へ伝えていく良い教材になったと感じています。時間を忘れ、ゆっくり移動する手段として、これからも活用していきたいと思います。
 最後に、さんふらわあさん、楽しい思い出をありがとうございました。そしていろいろとご配慮頂き、心より御礼申し上げます。また機会があれば利用しますね。皆様も移動手段の一つとして、時間をかけた船旅を楽しんでみてはいかがでしょうか?

概要:株式会社 フェリーさんふらわあ
ホームページ: https://www.ferry-sunflower.co.jp/
航路:六甲アイランド港 ⇔ 大分港
内訳運賃:片道料金 車代(身障者手帳半額)17,400円 + 部屋代(デラックスタイプ)

当事者1名+介助者1名まで半額、
もう1名介助者は正規料金 28,400円 =
合計45,800円 ※3ヶ月に1度料金変動有
※往復の場合は×2
渡航時間:片道約11時間半前後


12年ぶりに訪れた別府駅前にて

大分名物 とり天

カテゴリー: 機関誌「縦横夢人」記事 パーマリンク