「縦横夢人」2019年夏号(No.25)
連載企画
恋旅
恋するジェーン ~その2~
竹村 美紀子
アメリカに留学中に知り合い、暫くの間、私のアパートに居候することになった女性、ジェーンのお話の続きです。
私はよく、いろんなところで、「アメリカに住んでいたころから自炊をしていた」と話します。でも実際のところ、当時の私のアパートの小さな冷蔵庫の中には、フルーツが数個入っていたり入ってなかったりの程度でした(笑)
そんなある日、帰宅し冷蔵庫を開けると、冷蔵庫が呼吸困難になりそうなほどに食料でいっぱいに。『ん?』 そして、小さな戸棚を開けると、崩れてきそうなほどのシリアルや缶詰などでいっぱい。「ジェーン!これ何~?どうしたの~?」彼女はフードスタンプと呼ばれる、低所得者が月に一度くらいだったかで貰える食料購入用の金券のようなものを受け取っていたのです。確か当時は、上手に使えば次の配給まで何とかやっていける金額だったかと思います。でも、受け取ったその日のうちに全て使い切るジェーン。
次の日、うちに帰るとキッチンから美味しそうな良い匂い。テーブルにはたくさんのお料理。そしてジェーンが更に何かを作り続けている。「ねえ、Kさんを呼びましょ。彼にも食べてもらいたいわ。」Kさんは、当時私がいろいろとお世話になっていた親切な日本人の知り合いの男性。そしてジェーンのお気に入り。その夜は3人で大食事会(笑)ジェーンもスーパーご機嫌なのでした。でも、作りすぎた料理は大量の残飯となり、買い過ぎた食料は消費できない内に、傷みやすい野菜などから次々と腐っていっては処分し、数週間も経たない内に、残っているのは少しのシリアルだけといった状況になる始末。それでも、また次のフードスタンプが配給されると懲りもせず全く同じことを繰り返すのでした。
そんなジェーンは大の男性好き。更にかなりの面食い。常に誰かを狙っていて、いつもちゃんと誰かをどこかでゲットしてくるのです。
正直言ってちょっと小太りで、お化粧濃い目のどこにでもいそうな中年女性にしか見えませんでした。当時無職だった彼女は、時間があるのでしょっちゅう散歩に出かけていました。そして良いなと思った男性には積極的にアプローチし、「うち(私のアパート)でお茶しない?」と連れて帰って来てはソファーでいちゃついたり、病院に診察に行く時には「ドクターが素敵なのよ。ほら、いつ何があるかわからないでしょ」と言って身支度の仕上げには股を広げて香水をシャカシャカしたりと、いろいろと仰天させられました。そして私は『それにしても彼女、仕事と住むところ、ほんとに見つける気あるのかなあ』などと思い始めていました。
当時、私の隣のお部屋には一人暮らしをされているドーラと言う高齢の女性がいて、私は時々夕食をご馳走になっていました。その日はドーラから「ジェーンも一緒にいらっしゃい」とお誘いを受け、3人で彼女の手料理をご馳走になっていました。そこへ、ドーラの息子さんが偶々用事で来られたのです。この息子さん、私は以前から知っていたのですが、母親思いで人当たりも良く、そしてジェーンの好きなイケメンなのです。でもその時は、ほんの数分、挨拶をする程度で帰られました。
それから間もなく、ジェーンはさっさと引越しの準備をして、あっけなく去って行きました。何処でどうなってそうなったのか、引越し先はドーラの息子さんのところでした。あまりの急展開に私は驚き、そしてドーラに関してはかなりのご立腹でした(笑)でも、暫くすると、やっぱりジェーンはまた何処かへ放浪の旅に出たようでした。情緒不安定で、喜怒哀楽のどれをとってもスーパー級のぶっ飛んだ彼女でしたが、何があっても立ち上がって前進、と言うか突進して生き抜いていく強さはかっこよかったです。そして、いつでも何事にも一生懸命な彼女は、やっぱりなんだかんだ言ってもチャーミングで魅力的な女性でした。 おわり